リカレント教育と生涯学習の違いは?それぞれの意味や重要性について

リカレント教育

大人の学び直しとして注目を集めている「リカレント教育」や「生涯学習」。

人生100年時代においては、一人ひとりが人生を再設計してキャリアやライフスタイルを選択していく必要があるため、政府や自治体もリカレント教育や生涯学習を推進しているといった状況です。

この記事では、混同されやすいリカレント教育と生涯学習の意味や違い、重要性などについて解説します。

リカレント教育や生涯学習とは


リカレント教育や生涯学習という言葉は聞いたことがあっても、両者の違いについてきちんと理解できていない人もいるのではないでしょうか。

ここでは、リカレント教育や生涯学習の意味、両者の違いについて解説します。

リカレント教育とは

「リカレント教育」の「リカレント」には、「繰り返す」「循環する」などの意味があります。リカレント教育とは、社会人になって一通り仕事を身につけたあと、それぞれが必要なタイミングで仕事に活かせる新たなスキルや専門知識を得るために勉強することです。

仕事と教育を繰り返すことがリカレント教育の特徴で、「社会人の学び直し」などとも呼ばれています。

どのような学びを行うかは個人の仕事内容やスキルなどによっても異なり、MBAなどの経営スキルやビジネス英語、プログラミング、労務・経理の資格取得など多岐にわたります。

なかには専門学校や大学に再入学して学ぶ人もおり、自ら学ぶ人を後押しする企業も増えているといった状況です。

また、技術の進歩や社会の変化に伴い、学びが必要になるケースも出てくるでしょう。リカレント教育に年齢制限はなく、いつからでも始めることができます。

生涯学習とは

「生涯学習」とは、生涯にわたって行う学習活動を指します。生涯学習の範囲は広く、学校教育や家庭教育、職場や地域におけるあらゆる学びが含まれます

また、ボランティア活動やスポーツ、文化活動、趣味なども学びの対象となり、誰でも、いつでも、自由に参加できる学びです。

かつてはシニア世代の学びと捉えられていた風潮もありましたが、年齢を問わず、学びを深めたいすべての世代の人を対象に多様な学びができるのが生涯学習の特徴です。

「人生100年時代」が到来するなか、生涯学習はそれぞれの人が豊かな人生を送ることを目的としています。

変化の激しい社会において、多様な価値観に触れて知見を広める、柔軟な対応力を身につけるといった考え方はますます重要視されています

リカレント教育と生涯学習の違い

リカレント教育は主に、仕事に活かすための知識やスキルを身につけるための学びです。

少子高齢化による労働人口の減少や人々の寿命が伸びたことなどにより、一生涯働き続けるといった考えが重要視されるようになっています。

また、働き方の多様化やDX化の推進などにより既存の知識やスキルでは対応できなくなる可能性もあるなど、リカレント教育によって仕事やキャリアに活かせる学びを深めたいという人が増えているのです。

一方の生涯学習は豊かな人生を送ることを目的に、スポーツやレクリエーション活動、趣味などの仕事に無関係なものや、「いきがい」につながる内容も学習対象に含まれます。

さらに、リカレント教育は企業が主体となって行うものも多いのに対し、生涯学習は自主的に学ぶことが前提となっています。

その他似ている語との違い

リカレント教育や生涯学習と似た言葉に「リスキリング」があります。リスキリングとは、ビジネスにおける変化や技術の進歩などに対応するため、新たなスキルや知識を習得することを指します。

IT化やDX化が進むなか、社会の変化に伴って発生する業務に対応できる人材を教育することもリスキリングの目的の一つです。

リカレント教育とリスキリングはどちらも大きい枠組みのなかではキャリアや仕事に関する学びといえますが、リスキリングはより新しいスキルや知識を習得することを目的としています。

また、リカレント教育は本来仕事を離れて学び直すことを指しているのに対し、リスキリングは仕事と同時進行で学ぶという違いもあります。

リカレント教育と生涯学習の歴史について


リカレント教育と生涯学習は、どちらも1960年代に注目を集めはじめました。ここでは、両者がどのように広まっていったのか、リカレント教育と生涯学習の歴史について見ていきましょう。

リカレント教育の起源や歴史

リカレント教育は、1969年に開催されたヨーロッパ文部大臣会議において、当時スウェーデンの文部大臣であったオロフ・パルメ氏がリカレント教育を取り上げたことによって注目を浴びました。

その後、経済協力開発機構(OECD)がリカレント教育を採用し、1973年にリカレント教育に関する報告書を公表したことで世界に広まっていきます。

1990年代にはヨーロッパに遅れを取って日本でも生涯学習の重要理念としてリカレント教育が取り上げられましたが、すぐに広まりを見せることはありませんでした。

時を経て2017年に、政府による「人づくり革命」でリカレント教育の抜本的拡充を公表したことで認識が広まっていきます。

生涯学習の起源や歴史

生涯学習の始まりは、1965年に国連教育科学文化機関(ユネスコ)の成人教育推進国際委員会で、成人教育部長のポール・ラングラン氏が生涯教育を提唱するワーキングペーパーを提出したことがきっかけでした。

生涯にわたる学習機会の提供や成人教育推進のあり方について述べられたワーキングペーパーは、当時同委員会に参加していた日本の心理学者波多野完治氏に感銘を与え、日本にその概念が持ち込まれます。

その後、日本では高度経済成長期を経て、国際化や情報化、都市化、高学歴化、家庭生活の変化などの社会変化が起こります。

このような複雑な社会に対応するべく、個人の能力やスキル啓発のために生涯学習の必要性が議論されるようになりました。

2006年には教育基本法改正時に生涯学習に関する規定がなされ(【文部科学省】https://www.mext.go.jp/a_menu/ikusei/koureisha/1317565.htm)、生涯学習の環境整備と学びを活かせる社会実現といった目標が法律で制定されました。

リカレント教育が必要な理由


ここからは、リカレント教育が必要とされる理由について解説します。

寿命が延びたことによるライフスタイルの変化

リカレント教育が必要とされる理由の一つに、寿命が伸びたことによるライフスタイルの変化が挙げられます。

少子高齢化による労働力の減少や、人々の寿命が伸びたことによる人生100年時代の到来など、生涯現役を前提として自分自身でお金を稼ぎ続けられる力が必要になってきているといえます。

もはや、退職金と年金だけで充実した暮らしをするのは難しいといえるでしょう。なかには定年後にもやりがいを持って暮らしたいと、働き続けることを選択する人もみられます。

ただし、新たなキャリアに挑戦したり、長期間働き続けたりするためには学び直しによるスキルや知識のアップデートが必要です。

一人ひとりが充実した人生を送るためにも、リカレント教育によって何歳からでも学び直し、チャレンジを続けられる社会の実現が求められています。

IT技術の革新

人工知能やIoTなどの技術革新が進み、変化に対応するための新たな知識やスキルの習得が求められています。

2030年ごろには「第4次産業革命」が起きるともいわれており、より利便性や効率性が求められる変化の時代において、生き残るためには継続的なアップデートが必要になるでしょう。

もはや既存の知識や技術だけでは対応できなくなる可能性があります。デジタル技術を用いて既存のビジネスモデルを変革し、革新的な商品やサービスを生み出す「DX化」も推進されています。これからの時代、ITスキルなしには活躍の場も狭まってしまうでしょう。

リカレント教育は、新しいビジネスへとスムーズに移行するための重要な戦略の一つともいえます。デジタル化に対応するため、リカレント教育による継続的なアップデートが求められています。

雇用の流動化の加速

かつての日本では終身雇用が当たり前でしたが、価値観が大きく変わり、もはや入社時に定年まで働くことを想定する人は少なくなっている状況です。

独立や転職などによりキャリアアップを目指すことが一般的となっており、雇用の流動化が加速しています。

一つの会社にとどまらず転職や独立を目指すためには、新たな専門知識やスキルを身につけ、優秀な人材となる必要があります。

ただし、1社あたりの勤続年数が短くなることで、実務やこれまでの社内教育だけでは十分なスキルを身につけづらくなったという課題もでてきました。

キャリア意識が高い人は自主的に学びを深め、一方、企業は優秀な人材が流出しないよう、教育制度を充実させる必要があるでしょう。このような雇用形態の変化も、リカレント教育が必要とされる背景の一つとなっています。

リカレント教育のメリットは?


リカレント教育で学びを深めることで、さまざまな恩恵を受けることができます。ここからは、それらリカレント教育のメリットを紹介します。

メリット

リカレント教育には主に「就業や転職で有利になる」「専門性の高い職業に就きやすい」「収入が上がる」といった3つのメリットがあります。

就業や転職で有利になる

リカレント教育を受けることによって、就業や就職で有利になるといった側面があります。

内閣府の調査によると、リカレント教育学習者の就業率は非学習者と比べ、10〜14%ほど向上することがわかっています(【内閣府】https://www5.cao.go.jp/j-j/wp/wp-je18/h02-02.html#h020203)。

また、非就労者が再就職をする際にも、リカレント学習者の就業率は非学習者に比べ、学習開始後1年で11.1%、3年で13.8%も増加しています(【内閣府】https://www5.cao.go.jp/j-j/wp/wp-je18/h06_hz020210.html)。

現在の仕事を辞めて再就職を目指す人にとっても、リカレント教育が有効なことがわかるでしょう。

学び直しで知識やスキルをアップデートすればキャリアの選択肢も増え、転職市場でも即戦力としてアピールできます。

現時点で転職を考えているのであれば、転職に必要なスキルや資格などをチェックしておき、それらを満たす学びを行うのがおすすめです。

専門性の高い職業に就きやすい

リカレント教育で知識やスキルを身につければ、IT技術職やマネジメント職などの専門性の高い職業に就ける可能性も高くなります。

テクノロジーの進歩に伴い、より専門性の高い職業へのニーズも高まっています。リカレント教育は、機械でもできる定型的な仕事から脱却し、キャリアアップを目指せる武器となるでしょう。

実際にリカレント教育学習者の専門職への就業率は、学習開始後1年で2.8%、2年で3.7%、3年で2.4%高くなる傾向にあります(【内閣府】https://www5.cao.go.jp/j-j/wp/wp-je18/h06_hz020210.html)。

学び直しによって専門知識はもちろん、新しい考え方や視野が持てるようになれば、新たな職種や業界で働くチャンスも生まれるでしょう。

これまで希望する職種はあっても、必要な資格やスキルがなく、応募を諦めてきたという人もいるかもしれません。リカレント教育を通してスキルアップを図り、将来的に望む職種を目指せるのもメリットです。

収入が上がる

リカレント教育によってスキルアップし、より専門性の高い職務に就くことで、収入アップや昇進にも期待できます。

業務に直結する資格を取得できれば、資格手当が支給されるケースもあります。専門知識やスキルを身につけている人材であれば、企業は高給を出してでも手放したくないはずです。

内閣府の調査によると、リカレント教育学習者の平均年収は非学習者に比べ、学習開始後2年で9.9万円、3年で15.7万円も増加していることがわかります(【内閣府】https://www5.cao.go.jp/j-j/wp/wp-je18/h06_hz020210.html)。

学習開始後すぐに結果が出るわけではありませんが、継続的に学び続けることで収入が増加することは励みになるでしょう。

これからの時代は受け身の姿勢ではなく、一人ひとりが自主的にスキルアップを図ることが求められています。

生涯学習が必要な理由

生涯学習を通して継続的に新しい知識や技術を習得することで、社会や経済の変化に対応できるようになると考えられます。

文部科学省も「生涯学習社会の実現を目指すべきである」と明言しており、2006年12月に可決した改正教育基本法においても、生涯学習社会の実現に努めることが規定されています(【文部科学省】https://www.mext.go.jp/a_menu/ikusei/koureisha/1317565.htm)。

生涯学習によって年齢を重ねても生き生きと働く基盤ができ、生きがいや心の豊かさを追い求めることが可能です。

また、超高齢化社会を迎えるなか、年金や老後の資金などの不安を抱える人も多いでしょう。

生涯学習で学ぶことで超高齢化社会に対応しやすくなるほか、変化の激しいデジタル社会に対応するためにも、現代人には生涯の学びが必要とされています。

生涯学習のメリットは?


仕事のスキルアップには直結しない生涯学習にもさまざまなメリットがあります。ここでは、生涯学習のメリットについて見ていきましょう。

豊かで楽しい生活を送れる

生涯学習はリカレント教育と異なり、仕事のスキルアップに関係のない絵画や料理、スポーツ、文化など、自分の好きなことや興味があることを学ぶものです。

ジャンルやテーマは実に多彩で、既存の価値観を変え、視野を広げてくれるものにも出会えるでしょう。

たとえば、パソコンが苦手な人が基本操作やタイピングなどを学び始め、慣れてきたらWordやExcel、PowerPointなどにも関心を持ち、MOSの資格を受けたいと思うようになるかもしれません。

新しい知識やスキルは人生の財産となり、生活にさまざまな楽しみや生きがいを与えてくれます。

また、学びから得た知識によって、問題の解決策が見つかる場合もあります。学びに終わりはありません。豊かで充実した生活を送るためにも、一生を通して学び続けることが大切です。

新たな人脈を形成できる

生涯学習を通して、職場や家庭以外のコミュニティに参加できる点もメリットです。生涯学習は、好きなことや関心のあることを学ぶ場です。同じことに興味を持っている人がほとんどなので、そこで培った人間関係は一生涯続くこともあります。

あえて交流を目的として始めなくても、自然と仲間ができやすい環境といえるでしょう。新しい人との出会いが増え、コミュニティに属することで人とのつながりができ、孤立を防ぐといった側面もあります。

日頃はあまり接点がない、年代やバックグラウンドの異なる人たちと仲良くなることも少なくありません。

また、生涯学習で培った人脈がビジネスにつながるケースもあり、起業している人などに有利に働くこともあります。

さらに、困ったときに相談できる仲間がいるのは心強いものです。高齢者の単独世帯も増えているなか、生涯学習の場は話し相手や相談相手を得られる場にもなります。

老後の備えになる

生涯学習は老後の備えにもなります。年齢を重ねるにつれ、老後の資金や身体機能の衰えなどといった不安要素が出てくる可能性もありますが、お金や健康づくりなどについて学んでおけば老後の準備に役立てられるでしょう。

高齢期に向けて健康管理や健康づくりに取り組み、適度なスポーツを行うことも必要です。生涯学習ではそれらの領域も範疇内となり、日々をより良く生きるための知識やスキルを身につけることができます。

社会貢献につながる活動を通し、やりがいを得られるという人もいるでしょう。毎日を生き生きと過ごすことで心身ともに健康になり、介護予防にもつながります。

また、趣味を楽しむだけでなく、仕事に役立つスキルを身につけ、リタイア後に起業や再就職をすることも可能です。

リカレント教育や生涯学習で学べる内容

ここからは、リカレント教育や生涯学習でどんなことが学べるのかを紹介します。

リカレント教育

リカレント教育で学べる内容は多岐にわたります。基本的には現在の仕事に関連する分野を学ぶ人が多いでしょう。

たとえば、経営学や会計、法律などのビジネス系科目、英語や中国語などの語学などをはじめ、専門職や医療、MBAなどの資格取得を目的とした学びなども含まれます。

また、ITやデータ分析のような急速に進化する技術分野でも学び直しは必須です。社会的需要の高い介護・福祉や、地域に特化した観光・農業などを学ぶ人もおり、さらに生涯学習と同様に、音楽や哲学、スポーツなど、仕事とは直接的に結びつかない分野をリカレント教育で学ぶ人も増えています。

自身の業務内容や将来のキャリアプランなどと照らし合わせて、どのような学びが必要かを考えることが大切です。

生涯学習

生涯学習は多彩なプログラムがあるのが特徴です。料理や整理収納、お金に関する知識など、プライベートに役立つ講座も少なくありません。

知識や実践的な収納スキルを習得し、整理収納アドバイザーの資格取得を目指すといった人もいるでしょう。

また、ストレッチやヨガ、ダンス、各種スポーツなど健康に役立つ講座や、生花や陶芸、絵画、音楽、手芸、アロマ、プログラミングなどの趣味に活かせる講座も充実しています。

日常生活や旅行先で使える語学の習得を目的に、英語や中国語などを学ぶ人もいます。学んだことをすぐに実践できることも生涯学習の魅力です。

リカレント教育と生涯学習のどちらを選んだらいい?


リカレント教育と生涯学習では学べる内容が異なります。

リカレント教育と生涯学習のどちらを選んだらいいか迷ったら、まずは「仕事とプライベートのどちらを優先したいか」といった学ぶ目的を明確にしましょう

仕事や金銭面をより充実させたい場合は、リカレント教育に優先的に取り組むことをおすすめします。

仕事に直結する知識やスキルを増やせれば、昇給や昇格の可能性も高くなります。キャリアアップしたい、年収を上げたい、仕事に役立つ資格を取得したいなどと考えている人にはリカレント教育が向いているでしょう。

一方、暮らしを豊かにしたい、日常生活を充実させていきたいという場合は生涯学習を優先しましょう。

興味のある分野や日常生活に関連する内容はもちろん、それらにまつわる内容を横展開で学ぶとさらに理解が深まるはずです。

大人の学び直しで豊かな人生を送ろう

かつての終身雇用制度は終焉を迎え、雇用の流動化が加速する時代へと突入しました。転職や起業を考える人も少なくなく、それに伴い知識やスキルをアップデートしていく必要も出てきました。

大人の学び直しをすることで、より専門性の高い職業に就き、収入アップを目指すことができます。

また、仕事に直結しない学びであっても新たな人脈を形成したり、老後の備えになったりなどのメリットもあり、豊かな人生を送るためにも今後ますます学び直しの必要性が高まると考えられます。とはいえ、実際に何を学んだらいいかわからないという人も多いのではないでしょうか。

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