非認知能力を高めれば優れたビジネスパーソンとして成長できる
非認知能力は、「人間力」や「生きる力」と強く関連するワードとして今大きな注目を集めています。ビジネスパーソンとして成長するために必要な能力ともいえますが、必ずしも特別な才能というわけではありません。
そこで今回は、非認知能力の定義や認知能力との違い、重要性などを説明したうえで、非認知能力を構成する9つの能力とそれらを高めるポイントなどを解説します。
非認知能力とは?
非認知能力とは認知能力と対になる言葉であり、人間が社会生活を送るうえで非常に重要なものです。ビジネスを円滑に進めていくためには、認知能力以上に役立つシーンが多いかもしれません。
本章では、非認知能力と認知能力の定義、および両者の違いや、非認知能力の重要性について解説します。まずは非認知能力という言葉について、正しく理解を深めていきましょう。
非認知能力と認知能力の定義・違い
非認知能力とは、個人の価値観、感情、動機付け、自己制御など、認知的スキル以外の能力を指します。対して認知能力は、記憶、学習、理解、判断、問題解決などにおける知的能力を指した言葉です。
認知能力は主にIQ(知能指数)や学力テストで測定されますが、非認知能力は主に日頃の行動や態度を通じて観察・評価が行われます。
なお、学力を始めとした認知能力は自主学習で身につけられるものもありますが、非認知能力は集団の中で経験した困難や挫折を通して培われるものが多いです。また、非認知能力は認知能力と共に、個人の成長、学習、社会的な成功に大きく影響すると考えられています。
非認知能力の重要性
非認知能力は、人間の社会的な成功にとって重要なものであることが多くの研究で示されています。
ノーベル経済学賞受賞者のジェームズ・J・ヘックマンは、「非認知能力が学業成績、職業成績、健康などのライフアウトカム(社会的リターン)に重要な影響を与える」と主張しています。彼が行った「ペリー就学前プロジェクト」では、この独自の教育プログラムに参加した未就学児を40年以上にわたって追跡調査しました。
調査の結果によると、プロジェクトに参加した児童のほうが、不参加児童よりも高収入・高学歴であり、さらには逮捕率が低いことなども判明しています。プロジェクト内で行われた質の高い教育が、その後の人生に大いなる好影響を及ぼしたようです。
非認知能力は、柔軟性、対応力、創造性など、迅速に変化する今の時代(VUCA)に必要とされる資質の根幹となります。VUCAとは、Volatility(変わりやすさ)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧さ)の頭文字を取った造語で、「どんな事象が発生するのか予測しにくい時代」といった内容を指している言葉です。
非認知能力を育てることは、生涯学習と自己成長を促進するうえで非常に役立ち、人生をより生きやすくするための術ともいえます。
非認知能力を構成する9つのスキル
経済協力開発機構(OECD)をはじめ、多くの国際団体や研究機関によって、非認知能力を構成するスキルが定義されています。現時点では構成スキルが統一されているわけではありませんが、本章では非認知能力としてよく挙げられるスキルを一覧としてまとめ、それぞれについて詳しく解説します。
自己肯定感
自己肯定感とは、自分自身を正しく認識し、自分自身を大切だと思う感情を持つことです。自己肯定感を持つことによって、自分の能力を信じて物事に前向きな気持ちで取り組めます。
また、自己肯定感があれば精神的に安定した自分を保てるため、他者に対しても思いやりをもって接することができます。
なお、世界各国と比較すると、日本の若者の自己肯定感は低い水準にあることがわかっています。自己肯定感が低いと、周囲の目を過度に気にするようになってしまい、失敗することを怖がって消極的になってしまうでしょう。確かな自信を持って前を向くことで、堂々と物事にトライしていけるのです。
意欲・向上心
意欲や向上心を持つことで、目標に向かった行動の継続ができます。仮に失敗してしまったとしても、成長の糧と捉え、最後まで諦めずに取り組もうとする意識が高いのも特徴です。
トライアンドエラーをいとわない精神を持っている人ほど、成長のスピードもより早くなります。
また、意欲や向上心が旺盛であればあるだけ周囲が見えなくなるくらい物事に没頭します。困難や失敗に対しても、「どうしたら上手くいくのか」と集中力を保ったまま試行錯誤して考えることができるでしょう。自らが目指す夢や希望に向かって、まっすぐに突き進んでいけるのです。
やり抜く力
やり抜く力とは、成功をつかみとるまで途中で投げ出さずに続けられる力のことです。失敗するのではないかという不安や、辛い、苦しいといったネガティブな感情にも負けない持続力や忍耐力を指します。
なお、このやり抜く力は「GRIT(グリット)」と呼ばれることもあります。「Guts(困難に立ち向かう能力、度胸)」、「Resilience(失敗しても倒れない能力、復元力)」、「Initiative(自ら目標・課題を見つける力、自発性)」、「Tenacity(粘り強く完遂できる力、執念)」の4つの頭文字をそれぞれ取った言葉です。
「継続は力なり」という有名なことわざもあるように、物事を諦めずに継続することは、成功へとつながる大きなパワーになり得るのです。
セルフコントロール
セルフコントロールとは、自分自身の感情や行動を制御する能力のことです。自制心ともいいます。
コロンビア大学の心理学者・ミシェル教授によって行われた「マシュマロテスト」は、セルフコントロールが成功において重要な意味を持つことを示した実験として有名です。186人の4歳児を対象として、それぞれの子どもたちにマシュマロを与え、「私がこの部屋に戻るまで、15分間食べなかったらもう1個あげる」と伝えて実験者が一旦退室し、その後の子どもたちの行動を観察した実験です。
結果として、全体の3分の1の子どもは我慢できましたが、残りの子どもたちは待てずに食べてしまいました。さらに、この後の子どもたちの人生を追跡調査したところ、食べずに我慢できた子どもたちのほうが高校生時点における成績が高いことが判明したのです。
先天的な場合もありますが、受けた教育や置かれた環境などの後天的な作用で磨いていくことも十分可能です。セルフコントロール力と関連性の高い、脳の前頭前野などによる「実行機能」を鍛えていくことで伸ばせるといわれています。
メタ認知力
メタ認知力とは、自分の状況を客観的に判断できる能力のことです。
第三者視点から自分のスキルやステージを冷静に把握することが可能です。メタ認知力が高い人は、他者との適切な距離感を保ち、周囲に配慮した言動もとれます。感情のコントロールも非常に上手いため、何かトラブルが起きてしまったとしても落ち着いて対処することができます。
メタ認知力を鍛えていけば、物事に対して過剰に一喜一憂することなく、俯瞰的な視点で物事を分析し、次に活かしていくことができるでしょう。同時に、課題発見力や問題解決能力も自ずと磨かれていきます。
ソーシャルスキル
ソーシャルスキルとは、リーダーシップや協調性、他者への思いやりなど、人と人とのつながりを保つために必要な社会的能力のことです。
家族や友達、仕事仲間と協力して社会生活を送っていく中で、周囲に気を配ったりルールを守ったりしながら身につけていきます。特に、学生の頃に生徒会長や部長といったリーダーシップを発揮したことがある人は、管理職に就く確率やその後の給与も上がりやすいといわれています。
また、ソーシャルスキルを持っておけば、利害関係が対立する相手であっても不必要に敵対せず、目的達成のために協力関係をも築くことが可能です。多様な人と関わる機会が多いビジネスシーンでは、特に重要な能力ともいえます。
レジリエンス
レジリエンスは、回復力や強靭性と訳される言葉です。前述したGRITの中の「R」でもあります。困難や失敗に対して心が折れることなく、何度でも立ち上がろうとする力のことを指します。
いくらIQや学力が高かったとしても、レジリエンスがなければ一度の挫折が致命傷になりかねません。数値では測れない部分にこそ、立ち止まることなく走り続けられる力が備わっているのです。
クリエイティビティ
クリエイティビティとは、新しいものを創り出す力のことです。創造力や発想力とも言い換えられます。クリエイティビティは一朝一夕に習得できるものではなく、幼少期からの遊びなどを通して身につけていきます。
また、遊びに夢中になることは、物事に没頭したり熱中したりする集中力の育成にも繋がります。自らのキャリアの選択肢を増やしたり、新しい価値や仕事を生み出したりするなど、さまざまな可能性を広げていくうえでとても重要な力です。
また、創造力は、複雑な問題解決力・クリティカルシンキング(多角的に分析・検証し、正しい結論を導いていく思考法のこと)に次いで、3番目に必要なビジネススキルともいわれています。機械には真似できない人間特有の能力であり、今後ますます求められていく力であるともいえるでしょう。
リベラルアーツ
リベラルアーツとは一般的に、幅広い知識と教養を身につけることを目指す教育を指しています。昨今は大学教育の中でも重視されている分野です。「知覚・思考・実行」という知的生産のトレーニングであるという見方もあります。模範解答(正解)のない問題にアプローチするのに有効な方法です。
リベラルアーツを学ぶことで、多角的な視点から物事を理解し、自由な発想で問題を解決する能力が育まれます。総合力のある人材として、実社会で大いに活躍できるでしょう。
ビジネスパーソンにとっての非認知能力とは?
ビジネスシーンにおいて、非認知能力はどのように活かせるのでしょうか。本章では、ビジネスの場での非認知能力の必要性や、非認知能力と社会人基礎力との関係について解説します。
ビジネスの場での非認知能力の必要性
非認知能力は、VUCA時代の複雑かつ変化が激しいビジネス現場において、問題解決や意思決定を行う際の基盤となります。
対人関係を築くためのソーシャルスキルは、リーダーシップを発揮するうえで欠かせません。困難に立ち向かうためのレジリエンスや、新たな視点やアイデアを生み出すクリエイティビティを持つ人材は重宝されるでしょう。
特に近年はAI の発達が著しいため、機械に取って代わられることのない人間ならではの力がより一層求められています。セルフコントロールやメタ認知力はスムーズなコミュニケーションに役立ち、多様な人々と共に働くことを可能にします。
非認知能力と社会人基礎力との関係
社会人基礎力とは、経済産業省が2006年に提唱した「職場や地域社会で多様な人々と仕事をしていくために必要な基礎的な力」のことです。「前に踏み出す力」「考え抜く力」「チームで働く力」の3つの能力と12の能力要素が定義されています。
また、人生100年時代や第4次産業革命の到来で、社会人基礎力はますます重要視されるようになってきました。
そこで、2017年度に行われた「我が国産業における人材力強化に向けた研究会」において、「人生100年時代の社会人基礎力」とより強化された形で新たに定義されました。社会人基礎力の各能力を発揮するうえで、自己をしっかり認識してリフレクション(振り返り)を行いながら、何をどのように学んでどう活躍するのかを考えていくことがキャリアを切り拓いていくために今後必要となってきます。
人生100年時代の社会人基礎力は、ライフステージの各段階で活躍し続けるために求められる力を示すものです。非認知能力は、これらの能力および能力要素の形成に大きく貢献するといわれています。
非認知能力を高めるには?
非認知能力を高めれば、ビジネスパーソンとして成長できると同時に日常生活もより豊かにさせることができます。教育現場では幼少期から非認知能力を高めようという動きが盛んですが、大人になってからも向上させることは可能です。そこで本章では、非認知能力を高める方法を紹介します。
非認知能力は社会人になっても向上させられる
非認知能力は意識的な努力や練習、学習によって向上させられるため、生涯を通じて成長と発展が可能な能力です。
幼少期から取り組むほうが効果を得られやすいかもしれませんが、成人してからでも決して遅くはありません。心身の健康バランスを保ちながら、自身の非認知能力の強みと弱みを理解して改善に取り組むことが重要です。
健康に関しては、風邪などの目に見える体調不良だけでなく、ストレスなどの精神的不調にも目を向け、健やかな状態を維持できるようにしましょう。
趣味や習い事を通じて成長を図る
趣味や習い事は非認知能力を育てる絶好の機会です。子どもの非認知能力を育成する場合にも、習い事は有効だとされています。
幼少期は吸収力がとても高い時期であるため、習い事を通して心の力を多面的に鍛えられるからです。大人であっても趣味や習い事を通じて、新たなスキルを習得したり困難を乗り越えたりする経験が非認知能力を高めていくことに繋がります。
何かに夢中になることで、クリエイティビティや問題解決能力、メタ認知力など、多くの非認知能力スキルが獲得できるでしょう。
コミュニケーション能力を伸ばす
いかなる人が相手でも、コミュニケーションには非認知能力が求められるものです。
協調性やリーダーシップといったソーシャルスキルのほか、メタ認知力やセルフコントロールなども含まれます。円滑なコミュニケーションは思わぬ誤解を減らし、相互理解を深め、良好な関係を築くことを可能にします。さらに、人間関係の構築が上手くいけば、自己肯定感の醸成にもつながり得るでしょう。
話を傾聴し、適度に質問を挟み、たとえ相手の意見が自分と異なっていても否定せずに受け入れることを意識し、コミュニケーション能力を日頃から鍛えていきましょう。
条件反射的な行動をやめる
代わり映えのない日常が続くと、思考や行動がパターン化されてしまいがちです。パターン化した刺激のない人生を送っていては、非認知能力を高めることはできません。
また、感情のままに行動せず、何らかの目標に向かって自制心を養う訓練も非常に大切です。条件反射的な行動をやめることは、セルフコントロールやレジリエンスといったスキルを向上させるのにも役立ちます。
目標を達成するための計画を整えることや、たとえ上手くいかなかったとしても気持ちを切り替えて冷静になることなどを日頃から意識するといいでしょう。
非認知能力は数値化できる?
そもそも数値化できない能力が非認知能力であるため、本来は点数をつけるべきものではありません。しかし、非認知能力の向上を客観的に知るためには何らかの測定・評価をしなければならないでしょう。そこで本章では、非認知能力の測定法と評価方法について解説します。
非認知能力の測定法
非認知能力を測定する方法には、「主要5因子性格検査(BigFive/ビッグファイブ)」「児童・生徒向け主要5因子性格検査」などがあります。
たとえばビッグファイブは、「開放性」「協調性」「誠実性」「外向性」「神経症傾向」という5つの因子で人間の性格が成り立っているとする理論です。Web上で診断できるツールもあるので、自身の非認知能力を測るために活用してみるとよいでしょう。
また、教育現場や企業研修では、課題解決能力やソーシャルスキルを評価するためのロールプレイやケーススタディ、あるいは自己評価アンケートなどで測定する場合もあります。
非認知能力の評価方法
非認知能力を評価する場合、定性的なアプローチがよく用いられます。自己評価や他者からの診断によるため、数値化というより可視化に重きを置くことが多いです。
可視化を実現した評価ツールや評価シートも開発されており、能力向上のためのフィードバックが可能です。
今後、非認知能力の評価方法が確立すれば、人事領域での変革が起こるかもしれません。この大きな変化に備える意味でも、非認知能力を高めておくことは非常に有用です。
非認知能力を高めて理想のビジネスパーソンになろう!
非認知能力を構成するスキルは数多く存在しているため、人間力を総合的に向上させようとする意識が必要です。日常生活やビジネスを通じて伸ばすだけでなく、リベラルアーツを学ぶのも非認知能力を高めるうえで有効です。
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