「リカレント教育」とは?注目される背景と社会人の学び直しの重要性
「リカレント教育」という言葉をよく耳にすることはあるものの、言葉の意味や学習方法などは詳しく知らないという人が多いのではないでしょうか。
そこでこの記事では、日本国内における現状や課題なども踏まえつつ、リカレント教育についてわかりやすく解説します。今大きな注目を集めているリカレント教育への理解を深めていきましょう。
リカレント教育とは?
リカレント教育とは、学校を卒業した後で改めて、各々が必要だと思うタイミングで学び直しを行い、仕事上役に立つスキルや知識を磨き続けていくことを指した言葉です。
生涯にわたって学び直しを継続し、将来的なキャリアアップを図ることを目的としています。元々、英語の「recurrent」には、「循環」「繰り返す」「再発する」などの意味があります。
欧米のリカレント教育は、社会人になった後、再び大学などの高等教育機関に戻ってフルタイムで学びを深めるのが一般的です。ただ、日本においては仕事を継続したまま学び直すスタイルもリカレント教育と呼ばれています。
リカレント教育に似た言葉との意味の違い
リカレント教育と似た言葉に「生涯教育」と「リスキリング」があります。本章では、それぞれの違いをわかりやすく説明します。言葉の意味を混同しないよう、しっかり区別したうえで理解できるようにしましょう。
リカレント教育と生涯学習の違い
生涯学習とは、豊かな人生を送るために学ぶことを指していて、ユネスコの成人教育長だったポール・ラングランによって1965年に示された概念です。
生涯学習には、仕事以外の場面におけるスポーツやボランティア、レクリエーションなどに関する学びも含まれます。リカレント教育よりも広義な概念を指した言葉です。
一方でリカレント教育は、あくまで仕事におけるキャリアアップやスキルアップを目的とした学習です。ラングランが示した生涯学習の概念を基本に、リカレント教育は1969年のヨーロッパ文相会議にて、スウェーデンの文部大臣(のちの首相)オロフ・パルメによって提唱されました。
リカレント教育とリスキリングの違い
リカレント教育もリスキリングも、「仕事やキャリアにおける学習」という広義では同じ意味の言葉です。
リスキリングのより具体的な意味としては、働きながら新たなスキルを身につけてキャリアアップすることを指しています。企業が主体となって、自社の事業戦略に合わせて従業員の人材育成を目指していきます。デジタル化に伴って新たに必要とされる技術の習得などをピンポイントで指すケースが多いです。
一方、リカレント教育は、従業員が主体となって知識やスキルを身につけるという違いがあります。リカレント教育のほうがより能動的な学習であり、生涯働き続けられるような知識や技術を自ら落とし込んでいくのが大きな特徴です。
リカレント教育はなぜ必要?注目される背景とは
リカレント教育は、なぜ今必要とされているのでしょうか。注目されている背景について、今回は4つのポイントに焦点を当てながら解説します。
リカレント教育の重要性について、背景を理解したうえで考えていくようにしましょう。
人生100年時代により生涯現役の需要が高まっている
学校を卒業し、社会人として定年まで働き続けた後は退職して穏やかに老後を過ごすのがこれまでは一般的でした。
しかし、医療の発達などにより寿命が延びているため、昨今は「人生100年時代」とも呼ばれるようになっています。生涯現役の需要が非常に高まっており、何歳になっても学び直しながら働き続けるライフスタイルに変わりつつあるのです。
また、定年退職の年齢が引き上がったことにより、学習を継続して過去の知識をアップデートする必要性も高まっています。新しい技術やデータはまさに日進月歩であるため、古いものが通用しなくなっていく可能性が十分にあり得るのです。
急速な技術革新による変化に対応する必要がある
ロボットやAI、IoT、ビッグデータなどの技術革新が昨今は目まぐるしいスピードで進んでいます。2030年頃に起こるのではないかと予測されているのが、IoTやビッグデータ、人工知能等の技術革新が一層進展した「第4次産業革命」です。
また、これに伴い、狩猟社会(Society1.0)、農耕社会(Society2.0)、工業社会(Society3.0)、情報社会(Society4.0)に続く、人類史上5番目の新社会「Society5.0」が到来するのではと言われています。このSociety5.0とは、サイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)をハイレベルな技術で融合させたシステムにより、経済発展と社会的課題の解決を両立する人間中心の社会を指しています。
このような大きな変化に対応するには、新たな知識やスキルを身につける必要があります。今後成長しながら生き残るためには、どの業界でもIT技術を導入したり、DXに対応したりすることが求められていくでしょう。
企業間の競争が激しさを増している
近年は企業間の競争が激しさを増しています。リカレント教育により個人のスキルが高まれば、企業のレベルを全体的に底上げでき、企業間の競争での生き残りを図れます。
また、リカレント教育で企業の競争力が上がれば、国際競争における国の力を維持することにもつながるでしょう。海外でも通用する知識やスキルを持ったグローバル人材の需要は非常に高いです。
逆に言えば、知識やスキルのほか、価値創造力が低い人材は将来的に上記のような競争から取り残されかねません。人生の質を高めていくためにも、周りと競い合える力を培うことはとても大切です。
キャリアアップのために転職する人が増えている
従来は、定年まで同じ会社で働き続ける終身雇用が当たり前の概念でした。
しかし、総合転職エージェント企業の調査(2019年5月実施)によると、全国の転職希望者405人の7割近くが「現在の会社に入社した時、定年まで働こうとは思っていなかった」と回答しています。このデータからもわかるように、近年は終身雇用制が崩壊傾向にあり、雇用を流動化させて企業の生産性を高めようとする流れが生まれつつあります。ネガティブな理由ではなく、スキルやキャリアを高めるために前向きに転職する労働者も多いです。
ただ、転職をするうえでは、新しいスキルや知識の習得を求められることが少なくありません。企業が主体となって従業員に研修や教育を提供する時代から、労働者が自発的に学んでスキルアップする時代へと変化しているのです。
リカレント教育に関する日本の現状と課題
現在の日本におけるリカレント教育はどのような状況なのでしょうか。リカレント教育を取り巻く現状と抱えている課題について、それぞれ解説します。
【現状】リカレント教育を自発的に行っている人はまだ少ない
日本では、自発的にリカレント教育を行う人の割合が諸外国と比べて低い傾向にあります。
リカレント教育の浸透度はまだまだ低く、制度や環境も十分とはいえません。転職者が増えているのは確かではありますが、キャリアに活きるような自己研鑽に自ら取り組もうとする人は依然少ないようです。
また、厚⽣労働省の「能⼒開発基本調査」によると、働きながら学べる環境を提供する企業の割合は、1割程度に過ぎないのが現状です。企業・労働者双方において、リカレント教育の重要性が浸透しきれていないことが窺えます。
【課題】時間の確保や費用の負担が難しい
仕事で忙しい日々を送っていると、リカレント教育の時間をなかなか確保しにくいのがまず大きな課題として挙げられます。
また、リカレント教育を受けることに対して周囲の理解を得にくい場合もあります。欧米では、高等教育機関におけるリカレント教育の学習が一般的ですが、日本においては社員の大学院修学を原則認めていない企業が全体の約半数にものぼっているのです。企業側の理解が進まない以上、リカレント教育のための時間を捻出するのは厳しいといえるでしょう。
さらに、リカレント教育は個人の費用負担が大きくなるケースもあります。国からの補助金や企業の福利厚生でカバーできる場合もありますが、学ぶ内容や方法によっては高額になってしまう可能性も高いです。リカレント教育に関心はあるものの、金銭的な理由で断念せざるを得ない状況があるといえます。
個人としてリカレント教育を行うメリット
リカレント教育を行うことにはいくつものメリットがあります。ここでは、リカレント教育を受けることで得られる個人のメリットを3つ紹介します。
主体性をもってリカレント教育を行うことで自分がどう変化していけるのか、より具体的にイメージしてみましょう。
新たなスキルを身につけてキャリアアップできる
リカレント教育を通して新たなスキルを身につければ、それを武器にキャリアアップすることが可能です。スキルがあると見なされた人材は、企業にとっても大きな価値となり得るでしょう。
IT関連など、より専門性の高い職業への就業も目指せます。例えば近年話題のAI関連業務は非常に進化のスピードが早いため、十分な知識をつけた人材は企業からの評価も高いといえます。
また、転職や昇進だけでなく、独立・起業の面でもリカレント教育は有効です。リカレント教育で身につけたスキルや知識は、自分の将来を切り拓いていくうえで大いに役立つでしょう。
年収が上がる
30歳以上の男女を対象とした内閣府の調査によると、自己啓発を行った人と行っていない人とでは数年後の年収に差が出ることがわかっています。
1年後の時点ではあまり違いは見られませんが、2年後には約10万円、3年後には約16万円の差が出てくるようです。すぐに年収が上がるわけではないとはいえ、中長期的な効果は確かにあります。
リカレント教育により新たな知識やスキルを身につければ、人材としての評価が高まり収入アップを期待できるでしょう。仮に、リカレント教育を受けても収入に変化がない場合、労働者が自分のスキルに見合った待遇を受けられる企業へと移る可能性も十分にあり得ます。
これは企業にとって貴重な人材の損失にもなりかねないので、昇給の制度を改めて見直すきっかけ作りにもなるかもしれません。経済的な豊かさは、人生の豊かさに大きな影響を及ぼすものでもあるため、労働者にとっては大きなメリットといえるでしょう。
多様な働き方を実現できる
リカレント教育により有用なスキルを身につけて企業にとって必要な人材となれば、働き方の希望が通りやすくなります。
新型コロナウイルスの流行により、ワークスタイルは非常に多様なものとなりました。どれもニューノーマルな働き方となっており、リカレント教育でのスキル習得により、在宅勤務やフレックスタイム制、時短勤務などがさらに選択しやすくなるでしょう。
また、企業が欲するスキルをしっかり身につけていれば、出産などで一度キャリアから離れたとしても復職がしやすいです。育児や介護をしながら働くことも叶いやすくなります。ワークライフバランスの調和がとれた生活を実現することができるでしょう。
リカレント教育で学び直す内容は?
リカレント教育で学び直す内容の代表例をいくつか紹介します。まず、AIやIoTの普及により需要が拡大しているプログラミングなどのデジタル技術があります。多くの企業がDX化を推進しているため、デジタル人材は非常に必要とされています。
また、エンジニアなどのIT職は、場所や時間を問わずに働けるケースが多いのも特徴です。よりフレキシブルな働き方を叶えるために、自分のライフスタイルに合わせて新たにデジタル技術を学び始める人が増えています。
他にも、外国語学習も非常に有用です。グローバル化は年々加速しており、国籍にとらわれない働き方がすでに多様化しつつあります。中でも、代表的な言語である英語が使えればキャリアの選択肢がぐっと広がっていくでしょう。国境を超えてあらゆる人々とコミュニケーションを取れるようになるため、さまざまな仕事にコミットできる可能性もあります。
さらに、事業戦略やマーケティング、人材マネジメントなどといった経営全般に関する知識も身につけておくと、ビジネスパーソンとしてさらに飛躍できるチャンスが増えていくでしょう。このように、学び直しの内容は非常に多岐にわたります。今後の自分のキャリアプランをしっかり設定しておくと、何を学ぶべきかが見えてくるでしょう。
リカレント教育を受けるときに利用できる助成金や支援制度
リカレント教育を個人が受けるときには、条件を満たしていれば助成金や支援を受けることも可能です。
そこで本章では、主な助成金や支援制度を紹介します。金銭的負担を軽減させるためにも、ぜひ参考にしてみてください。
教育訓練給付金
教育訓練給付金とは、厚生労働大臣が指定する教育訓練を修了すると、受講費用の一部を受け取れる制度です。
労働者による自主的な能力開発やキャリア構築をサポートし、安定した雇用と就職の促進を図ることを目的として定められました。講座の分野はIT、医療、事務、営業など非常に多くの種類があり、その数は約1万4000にものぼります。
また、教育訓練はレベルに応じて、専門実践教育訓練・特定一般教育訓練・一般教育訓練の3種類に分かれています。どの種類の訓練を受けるかによって、給付金の金額が変動してきます。
専門実践教育訓練は、受講費用の50%(年間上限40万円)が受講中6カ月ごとに支給されます。また、資格などを取得し、かつ訓練修了後1年以内に雇用保険の被保険者として雇用された場合は、受講費用の20%(年間上限16万円)の追加支給を受けることが可能です。
特定一般教育訓練と一般教育訓練は、訓練終了後にそれぞれ受講費用の40%(上限20万円)、受講費用の20%(上限10万円)が支給されます。ただ条件として、雇用保険に加入していることや、過去に同給付金を受けたことがないことなどが設けられています。
高等職業訓練促進給付金
高等職業訓練促進給付金は、母子家庭や父子家庭のひとり親が、国家資格や民間資格の取得を目指して修業する期間の生活費を支援する制度です。
訓練期間中は月額10万円(※住民税課税世帯は月額7万5千円)が支給されます。ただし、修学最後の1年間については、住民税非課税世帯・課税世帯問わずプラス4万円の増額があります。
片親家庭の経済的な自立を支援することを目的とした給付金制度です。利用条件として、20歳に満たない児童を扶養していること、児童扶養手当の支給を受けているか同等の所得水準にあることなどが定められています。利用相談については、お住まいの都道府県または市区町村で受け付けています。なお、支給期間の上限は4年です。
キャリアコンサルティング
キャリアコンサルティングとは、キャリア形成サポートセンターで今後のキャリアに関する悩みや不安を専門のコンサルタントに相談できるサービスです。在職中の人が対象となっています。
面談は無料で、所要時間はおよそ1時間です。対面のほか、オンラインでの相談も可能です。
対応してくれるキャリアコンサルタントは、一般企業やハローワーク、教育機関、若者自立支援機関など幅広い場で活躍しているため安心して相談をすることができます。
公的職業訓練(ハロートレーニング)
公的職業訓練(ハロートレーニング)は、ハローワークでの求職者(主に雇用保険受給者)を対象として、希望する仕事に就くために必要な職業スキルや知識などを習得できる制度です。
ものづくり分野や情報分野など、さまざまなジャンルの訓練を実施しています。訓練期間はおおむね3カ月〜2年ほどです。訓練は無料で受けられますが、テキスト代は自己負担となります。
また、雇用保険の対象外でも、一定の条件を満たしていれば月額10万円の支給を受けながら訓練を受けられます。こちらの訓練期間は2〜6カ月です。さらに近年では、新型コロナウイルスの影響で休業したりやシフトが減ったりした方も、働きながら訓練を受けることが可能です。
社会人がリカレント教育を受ける3つの方法
社会人がリカレント教育を受けるには、具体的にどのような方法があるのでしょうか。
本章では、仕事で忙しい社会人でもリカレント教育を両立することのできる主な方法を3つ紹介します。自分のワークスタイルなどと照らし合わせながら、適した学習方法を選ぶようにしましょう。
定時制・通信制大学に通う
定時制・通信制大学などに通学し、大学が設ける社会人向けのコースや、ビジネスの特定の分野に特化した講座を履修する方法がまず挙げられます。
特に社会人向けの講座は、ビジネスパーソンでも参加できるよう夜間や休日に開かれていることが多いです。通信教育課程であれば場所も問わないため、仕事や家庭と両立した学習がより進めやすいでしょう。
ただ、入学金や授業料がかかる点は要注意です。大学によって前後しますが、数十万円程度の費用を負担する必要があることは念頭に置いておきましょう。
国の職業訓練を受ける
国が用意している、社会人の学習ニーズに合わせた職業訓練を利用する方法もあります。先の段落で取り上げた通り、給付金の対象になるものも少なくありません。リカレント教育の金銭的負担が気になる方は、ぜひ積極的に利用してみるといいでしょう。
仕事に役立つ資格を新しく取得したい人にも向いており、IT、福祉、医療、事務などさまざまなジャンルのプログラムが充実しています。
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大人の学び直しでキャリアアップしながら成長し続けよう!
人生100年時代の今、中長期的なキャリア形成を図っていくうえでリカレント教育は非常に大きな注目を集めています。
仕事で活きる知識やスキルを学び直すことで、ビジネスパーソンとしてさらにステップアップしていけるでしょう。
リカレント教育の学習方法としては、オンライン学習サービス「LIBERARY」がおすすめです。自発的に学びを深め、着実なキャリアアップを目指していきましょう。