日本におけるリカレント教育の現状は?世界との比較や課題について
日本では、リカレント教育の重要性に大きな注目が集まっています。しかし、諸外国と比較すると課題も多いのが現状です。
そこで今回は、日本におけるリカレント教育の現状や課題、解決策などを詳しく解説します。リカレント教育に対する理解を深めていくために、周辺を取り巻くさまざまな事情もしっかり押さえていきましょう。
日本におけるリカレント教育の現状
リカレント教育が注目を集めているのは確かですが、まだ日本では広く普及しているとは言えない状況です。
日本におけるリカレント教育は、具体的にどのような現状に直面しているのでしょうか。本章では、主なポイントを4つ紹介します。
リカレント教育を受ける社会人の数は少ない
世界的に見ると、日本でリカレント教育を受ける社会人は非常に少ないのが現状です。
25歳以上の「学士」過程への入学者の割合は、日本はOECD(経済協力開発機構)諸国の中で最低レベルにあります。ここから、⼤学・⼤学院の正規課程で学んでいる社会⼈の割合が低いことが窺えます。
一方、スウェーデン、フィンランド、ドイツなどのヨーロッパ諸国は早い段階でリカレント教育の重要性に目を向け、国が主体的にリカレント教育の推進に積極的に取り組んできました。
日本人はこれまであまり学び直しをすることがなく、明治から続く工業化時代の人材育成方針が古い体制のまま残っています。この長い年月にわたる体制の差が、世界における現在の日本と諸外国との立ち位置を形成していることにつながっています。
また、個⼈・企業がどの程度教育に参加・参画しているかを調べた調査では、日本は32か国中26位でした。諸外国と比較すると、労働市場のニーズとあまり合致していないという状況であるため、リカレント教育を受けようと行動に移す人が日本では少ないという現状に行き当たります。
教育に関する企業の取り組みが十分ではない
国際競争力の高い諸外国では、国も企業もリカレント教育に対して積極的な姿勢を見せていますが、この点が日本では十分とはいえません。
従業員のスキルアップに関する課題は、個人に任せている企業がほとんどです。人件費を抑制するために、従業員の教育訓練に充てる予算は限られています。
企業研修は、実務を通してスキルを身につけていくOJTが日本では一般的です。そんな現状に置かれているため、リカレント教育に対する職場の理解や評価は大抵低く、教育を受けるための休暇を取りにくいのも1つの課題です。
中には、リカレント教育における休職制度を設けている企業もありますが、日本では長期雇用の慣習がまだ根強く残っています。休職してキャリアが一時分断されることを懸念し、なかなか主体的な学び直しに積極的になれないケースが多く見られます。
リカレント教育プログラムを提供する教育機関が少ない
日本では、大学などの教育機関が提供するリカレント教育の講座やプログラムが少ないため、専門的な知識を習得しにくいです。
リカレント教育を実施している教育機関は増えつつありますが、カリキュラムの選択肢の幅が狭いのが現状です。また、社会人向けの学習内容では深い専門知識が問われます。
しかし、よりレベルの高い教育を提供できる指導スキルを持った教員の数も十分ではありません。
今後は、学び直しを行う社会人のニーズに合わせた教育環境を整えることがより一層求められていくでしょう。
ビジネスパーソンは忙しくリカレント教育に時間を取れない
日本のビジネスパーソンは基本的に忙しく、リカレント教育を受けるための時間を確保するのがなかなか難しい状況です。
日本のビジネスを取り巻く環境として、まず長時間労働や長い通勤時間などが特徴として挙げられます。また、余暇の時間や休暇を確保することが難しく、リカレント教育のためにまとまった時間を割く余裕がないのが現状です。フレックスタイム勤務制度や長期休暇の取得など、学習のための時間を設けられる制度も十分とはいえません。
多忙な社会人にとって、仕事と学びを両立させるのは非常に難しい問題です。そのため、目の前の仕事だけでいっぱいになり、学習が後回しになってしまうケースが多々見受けられます。
リカレント教育に関する日本と諸外国との違い
欧米などの諸外国では、リカレント教育のために会社を長期間休む、または仕事を辞めて大学に入り直すなど、長い時間にわたって学習するのが一般的です。
リカレント教育に対する国や企業の理解も高く、キャリアを離れてもまた戻ってこられる環境が整っています。
一方、日本では、リカレント教育は就業しながら学ぶことが想定されているケースが多いです。夜間や休日を活用して、集中的に学ぶスタイルが日本のリカレント教育では多く見られます。長く根付いてきた文化などの違いが、リカレント教育においても、日本と諸外国とで差異を生じさせているようです。
日本でリカレント教育が必要とされる理由
日本ではなぜ、リカレント教育が必要とされているのでしょうか。リカレント教育が求められている理由について、主なものを3つ紹介します。
学び直しを行ううえで、注目されている背景も含めて理解しておくようにしましょう。
労働人口が減少する中でも生産性を保つため
少子高齢化と人口減少が進んでいる中、「人生100年時代」という言葉も頻繁に取り沙汰されるようになってきました。
人々のライフスタイルが変化し、働く期間が長期化しているのが現代社会の大きな特徴です。産休や育休といったブランクを経て職場復帰をしたり、定年を迎えてもなお再就職を選んだりする人が増えています。
長く働き、かつ生産性を保つためには、常に新しい知識を身につけてスキルをブラッシュアップさせる努力が求められます。
そのためには、社会に出てからも学び続ける必要があるのです。
雇用の流動化に対応するため
終身雇用や年功序列の見直しが進んでいる影響で、雇用の流動化がすでに始まっています。
1つの会社で長く働くことにこだわらず、スキルアップやキャリアアップ目的で転職する人も少なくありません。国や企業が従業員の学び直しを推進・支援することが、生産性向上と競争力向上に自ずとつながっていきます。
また、企業側の視点で見ると、転職意欲の高まりによる優秀な人材の離職は防ぎたい所です。その点でも、社を挙げて教育制度を充実させれば、優秀な人材にとっては転職せずともスキルを高められる環境に身を置けることになるため、結果的に人材流出を防げます。
急速な社会の変化に対応するため
現代社会において、AIなどのデジタル技術革新によるデジタルトランスフォーメーション(DX)化が急速に進んでいます。どの業界においても、従来の常識や知識、技術では対応しきれなくなっているのが現状です。
DX推進におけるあらゆるデジタル技術は変化の速度が速く、情報をしっかりキャッチしておかないと時代にあっという間に取り残されてしまいます。このように、発展し続けている新たな技術に対応するため、学び直しの需要は大いに高まっているのです。
また、最新デジタル技術に対応することで、企業の事業成長に確実につながります。新たな事業に参入したり、既存の事業をよりアップデートさせたりすることが叶うでしょう。
日本でリカレント教育を浸透させるために必要な3つのこと
リカレント教育が広く普及しているとはまだ言い切れないこの国において、今後どんなことが求められるのでしょうか。
本章では、日本でリカレント教育を浸透させるために必要なことを3つ紹介します。
政府の支援
政府では現在、厚生労働省主体によるハローワークでの職業訓練の実施や、教育訓練給付金・高等職業訓練促進給付金などの支援策を実施しています。
文部科学省では、教育機関でのリカレントプログラム拡充支援のほか、社会人の学び直しを応援するポータルサイト「マナパス」の運営を行っています。
年々注目を集めているIT・デジタル領域のリカレント教育については、経済産業省が専門サイト「巣ごもりDXステップ講座情報ナビ」での情報提供や、情報処理技術者試験・情報処理安全確保支援士試験などの試験の実施などを積極的に推し進めています。
このようなサポートを政府が引き続き行い、より充実させていくことで、リカレント教育の推進が叶うでしょう。
企業の取り組み
企業には、社員の大学などへの進学を後押しする休暇制度を拡充することが今後求められていくでしょう。
中には日本でも、業務時間を「時短なし」「8割稼働」「6割稼働」「休業」の4つの選択肢から働き方を選べる制度を導入している企業もあります。
ほかにも、2〜3年の休職を認めている企業も登場しています。このように、学びに集中できるような環境作りに企業側も積極的に関わっていく姿勢が非常に重要です。
また、リカレント教育を受ける社員に対する費用面での援助も求められます。学び直しには少なからずお金がかかるため、個人の負担が少なくなるよう企業がサポートすることで、リカレント教育に意欲を見せる人も自ずと増えていくでしょう。
また、高度な教育を受けた人材を積極的に採用し、評価する体制も整えておくのも大切です。教育によって習得したスキルを実際に活かせる環境を整備し、個人がより高いレベルで活躍できるようになることで、結果的に企業全体の力をさらに底上げさせられるでしょう。
教育機関の受け入れ態勢
忙しいビジネスパーソンでも仕事と学びを両立できるよう、教育機関の受け入れ態勢を整えていくことが今後求められます。せわしない毎日の中でもしっかり学習を継続できるよう、短期での学位取得を可能にしたり、夜間・休日などの社会人が学びやすい日程や時間での教育プログラムを整備したりするのが重要です。
また、社会人の学び直しは、学生時代のものと比べるとより高度な内容が多い場合もあります。社会人向けに、幅広い分野やレベルに対応したカリキュラムを開発することも教育機関に求められています。
2022年度以降、社会人教育の拡充を予定している国立大学法人は4割以上あるとされていますが、今後は細部の内容をさらに整えていくことで、リカレント教育のより一層の普及が期待できます。
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日本のビジネスパーソンは、世界的に見ても労働時間や通勤時間が長く、忙しい毎日に追われているのが特徴的です。
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