【個人向け】リカレント教育にデメリットはある?メリットや必要性についても解説

リカレント教育

日本においても政府や自治体がリカレント教育を推進する動きがあり、学び直しをする社会人が増えています。

リカレント教育にはさまざまなメリットがありますが、一方でデメリットもあります。本記事ではリカレント教育のメリットやデメリット、リカレント教育で受けられる支援制度などについて解説します。

リカレント教育を受けようと考えている方は、メリットだけでなくデメリットも事前に把握しておきましょう。

リカレント教育とは


リカレント教育とは、就職などで一度学校教育から離れた人が、自身の必要なタイミングで再び教育を受け、仕事で必要なスキルや知識を継続的にアップデートすることを指します。

「リカレント(recurrent)」には「反復」「循環」などの意味があり、リカレント教育は生涯にわたって教育と就労のサイクルを繰り返す仕組みです。

「社会人の学び直し」と呼ばれることもあり、なかには専門学校や大学に入り直して学ぶ人もいます。

リカレント教育は社会人にとって、将来的なキャリア形成に役立つ仕組みといえるでしょう。リカレント教育という言葉は、1969年のヨーロッパ議会において、当時のスウェーデン文部大臣であるオロフ・パルメ氏によって提唱されました。

また、国もリカレント教育を後押ししており、厚生労働省は以下のような取り組みに注力しています。

  1. 一人ひとりのライフスタイルに応じたキャリア選択の支援
  2. 労働者・求職者のリカレント教育機会の充実
  3. 学び直しに資する環境の更なる整備
  4. 転職が不利にならない柔軟な労働市場や企業慣行の確立

引用:
文部科学省|文部科学省における リカレント教育の取組について

リカレント教育の内容はプログラミングや経営、会計、法律、語学など人それぞれです。

リカレント教育は社員のスキルアップやキャリア形成にも役立つため、リカレント教育を推進する企業も増えています。

リカレント教育と似た概念に「生涯学習」がありますが、こちらは生涯にわたって行う学習活動を指します。生涯学習とは「一人ひとりが豊かな人生を送ること」を目的に、自由に、いつでも、どこでも学べるものです。

生涯学習には公共施設などで開催される各種講座などがありますが、学校教育や家庭教育、職場や地域におけるすべての学びが生涯学習に含まれます。

生涯学習にはスポーツや趣味などの仕事に直接結びつかない学びも含まれるのに対し、リカレント教育は仕事に活かすための学びを前提としています。

リカレント教育が必要とされる理由は?


リカレント教育は政府も推進しており、国をあげて社会人が学べる環境づくりへの取り組みが行われています。ここでは、なぜリカレント教育が必要とされるのか、その理由を紹介します。

DX(デジタルトランスフォーメーション)の推進

デジタル技術の急速な進歩により、ビジネスや生活のあらゆる場面で変化が起きています。

「DX(デジタルトランスフォーメーション)」という言葉も耳にするようになりましたが、DXとはデジタル技術を活用し、既存の業務やサービス、組織などを革新していくことを指します。

急速に変化を遂げる技術革新に遅れをとらないためには、これまでの技術や知識だけでは不十分といえるでしょう。絶えず学び続け、知識やスキルをアップデートしていく必要があります。

より効率性や利便性が求められる社会においては、既存の知識や技術だけでは対応できず、新たなITやマーケティングの知識も必要不可欠です。

特にこれからの時代、ITスキルなしには活躍の場が狭まってしまう可能性もあります。新しいビジネスへのスムーズな移行を実現するという点でも、リカレント教育は注目を集めています。

労働期間の長期化

リカレント教育の背景の一つとして、寿命が伸びたことによる労働期間の長期化が挙げられます。

「人生100年時代」の到来により、定年を迎えてもなお働き続ける人が増えているのです。かつては定年後はのんびりと隠居暮らしを楽しむという方も多くみられましたが、生活のために、またはやりがいを求めて再就職するなど、働き続けることを選択する方も増えています。

また、少子高齢化による労働人口の減少も、人々がより長く働き続ける要因の一つに数えられます。長寿化社会では、就学、就職、引退といった従来のキャリアパスが通用しなくなっているのでしょう。

そのようななか、新しいキャリアに挑戦したり、長期間働き続けたりするためには、時代にマッチしたスキルや知識をアップデートし続ける必要があります。

充実した人生を送るためにも、100年先を見据えたライフプランを設計することが重要です。

働き方の多様化

日本企業特有の終身雇用制度を見直す企業も増えており、一生涯同じ職場で働き続けることはもはや当たり前ではなくなってきました。

有期雇用の従業員の増加、企業による早期退職者の募集なども増加し、従業員が自らの人生やキャリアに責任を持たなければならない時代へと突入しています。

一見、長期雇用における安泰が失われたようにも思えますが、見方を変えると会社に縛られず、自由にキャリアアップしやすい風潮が高まっているともいえます。

転職を繰り返して新たなキャリアを求める人も増えており、ほかの企業でも通用するような専門的な知識を身につけるためにリカレント教育で学ぶという方もいるでしょう。

企業側にとっても優秀な人材が流出するのを防ぐために、従業員へ知識やスキルをアップできる機会を提供する必要が出てきています。また、新型コロナウイルスが流行したことにより在宅勤務やオンライン対応などが増え、働き方が大きく変わってきたこともリカレント教育が注目を集めた背景の一つです。

オンラインに対応するためには、ITスキルの習得が必要不可欠でしょう。さらに、在宅勤務の普及により通勤時間が減って学び直しの時間を確保しやすくなったり、セミナーなどがオンラインで開催されることで遠方の人も参加しやすくなったりなど、学び直ししやすい環境が整ってきたといえます。

リカレント教育のメリット


ここからは、リカレント教育を受ける個人のメリットを紹介します。

キャリアの選択肢が増える

リカレント教育によって視野が広がり、新しい視点や考え方を持てるようになるでしょう。幅広い知識やスキルを習得すればキャリアの選択肢も増え、新たな業界や職種で働くためのチャンスも生まれやすくなります。

これまで、魅力的な求人に出会えた際に必要なスキルや資格がなく、応募すらできなかったという経験を持つ方もいるかもしれません。学び直しによってスキルアップを図れれば、将来的に望む職種に就ける可能性もあります。

また、今の会社で働き続けたいと思っていても、企業の統廃合や規模縮小、倒産などで残念ながら会社を去らなければならない可能性もゼロではありません。

そのような場面に遭遇した際にも、リカレント教育によってどのような職場でも通用する汎用性の高いスキルを身につけていれば、その後のキャリア形成の立て直しもしやすいはずです。

むしろ、知識やスキルのある従業員として、会社側が手放したくない人材になれるでしょう。

もし転職を考えているのであれば、転職に必要なスキルや資格、実務経験などを確認しておき、それらを満たす学び直しを行うのがおすすめです。

スキルを開発して年収アップを期待できる

リカレント教育を受けることで個人の能力を開発でき、就職先で早期に活躍することができるでしょう。

AIなどのテクノロジーの発達により、より専門性の高い知識や技術を必要とする職種も増えてきています。スキルアップできれば専門性の高い職務に就くことができ、成果を出すことで昇進や年収アップも期待できるでしょう。

特に、業務内容に直結する資格を取得することで資格手当が支給されるなど、収入アップにつながりやすくなります。豊富なスキルや知識を持つ人材であれば、企業側は高給を出してでも採用したいと思うものです。

また、内閣府の報告書では、自己啓発学習を行った人と行わなかった人を比べると、2年後には約10万円、3年後には約15万円も年収に差が出てくることがわかりました。(【内閣府】https://www5.cao.go.jp/j-j/wp/wp-je18/pdf/p02023.pdf)

これからの時代、社会人は受け身の姿勢ではなく、自主的にスキルを開発していくことが求められます。

多様な働き方を実現できる

リカレント教育で学びを深めることにより、多様な働き方を実現できます。一度職場を離れブランクを持つ人も、スキルを身につければ再就職しやすく、出産・育児や介護のために離職した人も復職しやすくなるでしょう。

終身雇用から成果主義への移行や、コロナ禍の影響などを受け、ますます各人のニーズに合わせた働き方が選べる社会へと変化しつつあります。

しかし、フレックスタイム勤務やテレワーク、短時間勤務などのような働き方を実現するためには、これまで以上に成果を出すことも必要となり、業務に必要な知識やスキル、資格を持つ人が前提となるのも現状です。

また、リカレント教育によってスキルアップすれば、独立しフリーランスになる、副業や兼業をするといった働き方も選択できます

このような多様な働き方を実現するためにも、リカレント教育による学び直しが重要になってきます。

リカレント教育のデメリット


リカレント教育にはさまざまなメリットがありますが、一方でデメリットもあることを理解しておきましょう。

続いて、リカレント教育を受ける際に考えられる個人のデメリットを紹介します。

カリキュラムが十分ではない

リカレント教育を実施している教育機関は増えているものの、カリキュラムの種類や数はまだ十分とはいえません。

教育機関でリカレント教育を受けようと思っても、選択肢が限られていると感じる人は少なくないでしょう。大切なのはあくまでも学習する中身です。

政府や地方自治体、企業は社会人の今後のキャリアパスに役立つ有意義なカリキュラムを提供し、それらを一定期間で学べる環境を整えることが求められています。

そのためには、優秀な教師も必要になります。また、リカレント教育を導入している企業はまだ少なく、すでに導入している企業であっても教育カリキュラムが十分とはいえないでしょう。

欧米などではリカレント教育の質・量ともに充実していますが、日本でも今後多くの人が関心を持てるカリキュラムを提供できるかが課題となりそうです。

学習時間を確保するのが難しい

リカレント教育を受ける際にネックになるのが、学習時間の確保ではないでしょうか。

日本は労働時間が長く、学習時間をとるのが難しい環境といえます。大学へ再入学する場合も長期間の休暇を取るのは容易ではなく、リカレント教育のための長期休暇制度が整備されている企業は少ないのが現状です。

一方、欧米では日本に比べ、リカレント教育を受けやすい環境が整備されています。正規の学生として大学に入り、学び直すことを推奨したり、一定期間収入を得ながら学べる有給制度を設けていたりする国もあります。

その背景として、欧米には日本のような終身雇用といった考え方が少なく、労働市場に流動性がある点が挙げられます。

新しい職場で活躍するためには、幅広い知識やスキルを身につけていく必要があるのです。社会人が仕事と学びを両立できるためには、学習時間を確保しやすい労働環境の整備も必要になるでしょう。

周囲からの理解が得られにくい

リカレント教育という言葉は普及しつつあるものの、リカレント教育に対する理解はまだ十分なものとはいえないでしょう。

たとえば、大学へ入り直して学び直しを行う場合には、休暇を取得して長期間にわたり学ぶことも想定されます。業務から離れるためには別の人へ自身の業務を引き継ぐ必要性も出てきますが、職場の理解を得られないと、そもそも学び直しのために休暇を取得すること自体が難しくなってしまいます。

育児や介護をしている場合は特に、周囲の協力を得られないと学び直しに時間を取れないでしょう。学び直しをするためには、周囲の理解や支えが必要になってきます。

リカレント教育で受けられる支援制度


国や自治体がリカレント教育を推進する動きがあり、さまざまな支援制度も用意されています。ここでは、リカレント教育で受けられる支援制度を紹介します。

教育訓練給付金

「教育訓練給付金」とは、厚生労働省が指定する教育訓練を修了した際に、受講費用の一部が支給される制度です。

雇用保険加入者が対象で、ビジネスパーソンの中長期的なキャリア開発や能力開発を支援し、就職の促進や雇用の安定を図ることを目的としています。

指定の教育訓練を修了した際に、自己負担額の20〜70%が支給されます。給付金の支給は訓練終了後なので、一旦は自身で講座費用をすべて払う必要があります。また、修了前に学びを辞めた場合には給付金の支給は行われません。

教育訓練給付金は内容やスキルレベルに応じて以下の3つに分けられており、支給対象者や支給額が異なります。

  1. 一般教育訓練給付金
  2. 特定一般教育訓練給付金
  3. 専門実践教育訓練給付金

一般教育訓練給付金では、支払った講座費用の20%相当が支給されます(上限は10万円)

特定一般教育訓練給付金は社会保険労務士養成講座や行政書士養成講座、税理士養成講座、介護職員初心者研修など、特にキャリアアップに効果が高いとされる講座が対象となります。

支給額は講座費用の40%(上限は20万円)と、一般教育訓練給付金に比べ高額なのが特徴です。専門実践教育訓練給付金はより専門性が高く難易度も高い講座が対象で、受講費用の50%(年間の上限は40万円)を最大3年間受給できます。

ほか2つの給付金は講座終了後に支給されますが、長期にわたる講座が多い専門実践教育訓練は、訓練受講中6カ月ごとに受給可能です。

さらに、専門実践教育訓練給付金を受けて資格を取得し、1年以内に一般被保険者等として雇用された場合、トータルで受講費用の70%(年間上限56万円)まで支給されます。

令和5年4月時点で対象講座は2800を超えており、学ぶ際の自己負担額を減らせることから社会人の学び直しにも広く活用されています。

高等職業訓練促進給付金

「高等職業訓練促進給付金」とはひとり親の経済的自立を支援するもので、国家資格やデジタル分野の資格取得などを目的に学ぶ際に給付金を受けられる制度です。対象資格は看護師や理学療法士、介護福祉士、調理師、シスコシステムズ認定資格、LPI認定資格など。給付金の受給対象者は以下のいずれかに該当するひとり親の方です。

  1. 児童扶養手当の支給を受けている、もしくは同等の水準(子どもが1人の場合、年収が365万円未満)にある
  2. 養成期間で6カ月以上のカリキュラムを修業し、対象資格の取得が見込まれる

訓練期間中の支給額は、住民税課税世帯か非課税世帯かにより月額7万500円〜10万円です。また、訓練期間の最後の1年間は支給額が4万円増、訓練終了後にも住民税課税世帯か非課税世帯かにより2万5000円〜5万円の支給を受けられます。

高等職業訓練促進給付金は、学業や生活に必要な費用負担を軽くするために活用できる制度です。事前相談や申請は各自治体で受け付けているので、まずは気軽に相談してみましょう

公的職業訓練(ハロートレーニング)

「公的職業訓練(ハロートレーニング)」とは、希望職に就くために必要な知識やスキルの習得を支援する公的制度です。

ハローワークに登録している主に雇用保険加入者を対象とした「離職者訓練」は、受講料が基本的に無料です(テキスト代は別途必要)

講座によって約3カ月〜2年の訓練期間があり、1年以上の訓練コースには有料のものもあります。講座は職業能力開発校やポリテクセンター、民間教育訓練機関などで実施されています。

また、雇用保険を受給できない人を対象とする「求職者支援訓練」も行われており、こちらは一定の条件を満たすことで月額10万円の支給を得ながら訓練を受けられるのが特徴です。

さらに、失業中の人だけでなく、在職中であるもののキャリアが少なく望んでいる仕事に就けないといった方向けに、2〜5日の短いコースも用意されています。

事務系やサービス、製造、プログラミング、Webデザイン、介護などの豊富なコースがあり、また宅地建物取引主任者や介護職員初任者研修、第一種電気工事士などの資格を取得できるコースも人気です。

ハロートレーニングを修了すると資格やスキルを取得できるだけでなく、訓練期間中の実習が「実務経験」としてみなされるケースもあります。転職の際、応募条件として実務経験を重視する企業もあるため、ハロートレーニングでの実習は強みとなるでしょう。

また、ハローワークを通じて就職先が紹介されるため、職種によっては高い就職率を誇るのも特徴です。

キャリアコンサルティング

「キャリアコンサルティング」とは、在職中の方を対象に、キャリア形成サポートセンターで専門のキャリアコンサルタントに今後のキャリアなどについて相談できる制度です。

ジョブ・カードなどを活用しながらの相談は無料で、「スキルアップしてキャリアの幅を広げたい」「将来的なキャリアの不安を解消したい」といった個別の悩みに寄り添ったサポートを受けられます。

コンサルティングは対面のほか、オンライン面談も可能。土日の対応もあるので、在職中の方でも利用しやすいでしょう。

コンサルタントとの対話を通して自身の価値観や強み・弱みを新たに発見でき、転職やキャリアアップに役立てることができます。

キャリアに関する悩みや課題について専門のキャリアコンサルタントが一緒に考えてくれるので、自身の考えを整理してみたいというときに利用するのもおすすめです。

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