リカレント教育で補助金を受けられる?個人や企業向けの支援制度とは
本格的にリカレント教育を受けたい、従業員に受けさせたいと思いながらも、学んだり学ばせたりするための費用負担が心配という人も多いのではないでしょうか。そんなときに知っておきたいのが、主に国が主体となって行っている補助金などの支援制度です。
この記事では、個人向け・企業向けリカレント教育の補助金や支援制度、制度を活用する際に気をつけたい点などについて詳しく解説します。
リカレント教育が補助金の対象となる理由
昨今、厚生労働省や文部科学省などの国や地方自治体がリカレント教育を支援する動きが活発になっています。リカレント教育を対象とした補助金も多数あり、社会全体で個人の価値向上を推進している流れです。
その背景の一つとして、少子高齢化による労働人口の減少が挙げられます。労働力不足を解消するためには定年年齢の引き上げが必要となり、労働者には長く活躍できるスキルや知識を身につけることが求められているのです。
また、変化が激しい時代において、DX推進に必要な人材が不足していることも背景の一つです。次々と登場する新しい技術に対応するための知識やスキルを従業員に身につけてもらうため、リスキリングに取り組む企業が増えています。
このように、国や地方自治体はリカレント教育を推進し、人材の価値を高めることに力を入れています。個人のスキルや能力を高めることができれば企業の雇用意欲も高まり、ひいては経済の活性化につながることも期待できるでしょう。
【個人向け】リカレント教育の補助金や支援制度
ここでは、個人向けのリカレント教育の補助金や支援制度を紹介します。
教育訓練給付金
教育訓練給付金とは学び直しの費用を助成する制度の一つで、雇用保険加入者が対象です。
教育訓練給付金には「一般教育訓練給付金」と「特定一般教育訓練給付金」、「専門実践教育訓練給付金」の3つがあり、厚生労働大臣が指定する教育訓練の終了時、もしくは受講中に受講費用の一部が支給されます。
一般教育訓練給付金
一般教育訓練給付金は、雇用の安定や就職の促進に関する教育訓練が対象となります。教育訓練施設に支払った金額の20%に相当する額(上限10万円)が訓練終了後に支給されます。
たとえば、講座の費用が30万の場合は6万円が支給され、自己負担額は24万円です。また、支給の対象となるのは厚生労働大臣指定の教育訓練講座のみ。指定を受けていない講座の費用は給付されないので注意しましょう。
支給対象となるのは雇用保険に1年以上加入していた社会人で、2回目の教育訓練利用の場合は勤続3年以上の人が対象です。
給付金の支給は訓練終了後なので、一旦自分で全額支払う必要があります。また、途中で学びをやめた場合は給付金の支給はありません。
特定一般教育訓練給付金
特定一般教育訓練給付金は、早期キャリア形成や再就職に関する教育訓練が対象となります。経理や税務、介護、保育などの、特に社会的ニーズが高いとされる講座に対して給付されます。
一般教育訓練給付金では支払った金額の20%が支給されますが、特定一般教育訓練給付金では40%と高額なのが特徴です。ただし、上限は20万円です。講座の費用が40万かかった場合は16万円が支給され、24万円が自己負担となります。
以下は対象講座の一例です。
- 税理士養成講座
- 社会保険労務士養成講座
- 行政書士養成講座
- 宅地建物取引士養成講座
- 介護職員初任者研修講座
- 介護支援専門員養成講座
- 介護福祉士養成講座
- 保育士養成講座
専門実践教育訓練給付金
専門実践教育訓練給付金は、中長期的なキャリア形成のための専門的・実践的な教育訓練に対して支給されます。専門性が高く難易度が高い講座が対象となり、受講費用の50%(年間上限40万円)を最大3年間受給できます。
たとえば、受講費が2年間で150万円かかった場合は、そのうちの75万円が支給対象額です。また、ほかの教育訓練給付金は講座終了後の支給であるのに対し、専門実践教育訓練は長期にわたる講座が多いため、訓練受講中6カ月ごとに支給されるのも特徴です。
さらに、教育訓練を受講したことで資格を取得し、1年以内に一般被保険者等として雇用された場合には、受講費用の20%(年間上限16万円)が追加で支給されます。
つまり、最大で受講費用の70%(年間上限56万円)まで受給できるのです。
なお、初めて専門実践教育訓練を受ける人が失業状態、かつ受講時に45歳未満であるなどの要件を満たしていれば、教育訓練支援給付金が別途支給される点にも注目したいところ。支給率や支給額には個人差があり、離職直前6カ月の賃金日額の45〜80%程度だということを理解しておきましょう。
また、専門実践教育訓練給付金を受けるためには、訓練対応キャリアコンサルタントによる訓練前キャリアコンサルティングを受ける必要があります。
以下は、専門実践教育訓練に指定されている主なものです。
・業務独占資格、名称独占資格などの資格取得を目標とする教育課程(1~3年)
※ 看護師、介護福祉士、建築士、保育士など
・専門学校の職業実践専門課程(2年)
※ 医療、工業、商業実務など
・専門職大学院(2~3年)
※ 教職員大学院や法科大学院など
・職業実践力育成プログラム(2年以内)
※ 大学等で実施されている職業実践力育成プログラム
・一定レベル以上の情報通信技術に関する資格取得を目標とする教育課程(2年以内)
※ ネットワークスペシャリスト、情報処理安全確保支援士など
・第四次産業革命に関するスキル取得を目標とした教育課程(2年以内)
※AI、セキュリティ、データサイエンスなど
母子家庭自立支援給付金及び父子家庭自立支援給付金事業
「母子家庭自立支援給付金及び父子家庭自立支援給付金事業」は、母子家庭の母や父子家庭の父の経済的自立を支援するための給付金です。
給付金には「自立支援教育訓練給付金」と「高等職業訓練促進給付金」の2つがあります。
自立支援教育訓練給付金
「自立支援教育訓練給付金」を受けるためには、母子家庭の母もしくは父子家庭の父で、20歳未満の子どもを扶養していることなどが条件です。
自主的な能力開発に取り組むことを目的に、雇用保険制度により指定されている教育訓練講座・自治体指定の講座を受講した際、かかった費用の60%が支給されます。
受講前手続きと支給申請は、居住地域の自治体で行います。
高等職業訓練促進給付金
「高等職業訓練促進給付金」とは、母子家庭の母や父子家庭の父が高等職業訓練を受講するのを支援する制度です。
自立支援教育訓練給付金と同様に、20歳未満の子どもを扶養している人が対象となります。看護師や介護福祉士、歯科衛生士、LPI認定資格など、就職時に有利になる資格取得を目指せます。
種類は、受講中に受給できる「高等職業訓練促進給付金」と、対象となる資格の受講修了後に受給できる「高等職業訓練修了支援給付金」の2つです。
給付額は市町村民税の課税世帯・非課税世帯によっても異なり、前者は受講中に月額7万500円〜10万円(上限4年)、後者は受講修了後に2万5,000円〜5万円が支給されます。
キャリアコンサルティング
「キャリアコンサルティング」とは、在職中の人がさまざまなキャリア形成支援や学び直しを受けられる制度です。
ジョブ・カードなどを活用しながら、今後のキャリアなどについてキャリア形成サポートセンターのキャリアコンサルタントに相談できます。利用は無料です。
「将来的なキャリアに不安がある」「スキルを身につけてキャリアの幅を広げたい」など、一人ひとりの問題に寄り添ったサポートを受けられます。
コンサルティングは対面、またはweb面談で実施され、土日の対応もあるなど、在職中の人でも無理なく利用できる点がポイントです。コンサルタントとの対話から自身の強みや弱み、価値観などに気づくことができ、キャリアアップや転職などにも生かすことができます。
公的職業訓練(ハロートレーニング)
「公的職業訓練(ハロートレーニング)」とは、ハローワークの求職者が希望する仕事に就くための必要な職業スキルや知識などを習得できる公的制度です。
各講座は基本的に無料ですが、テキスト代は別途必要です。
公的職業訓練には雇用保険受給者を対象とする「公共職業訓練」と、雇用保険を受給できない人が対象の「求職者支援訓練」があります。失業中の人だけでなく、働きたいのに経験やキャリアがないなどの悩みを抱えている人も申し込み可能です。
公共職業訓練の期間は、離職者向けが3カ月〜2年程度なのに対し、在職者向けは2〜5日程度と短いものがほとんどです。
事務系や製造・サービス、介護、建設デザインなど豊富な訓練コースがあり、ほかにもWeb設計や3DCAD、住宅リフォーム、女性向けコースなど、充実しています。
また、宅地建物取引主任者や第一種電気工事士、介護職員初任者研修などの資格取得ができるコースもあります。
日本学生支援機構の奨学金再貸与制度
「日本学生支援機構の奨学金再貸与制度」とは、過去に同機構の奨学金の貸与を受けたことがある人でも一定の要件を満足していれば、再び奨学金の貸与を受けられる制度です。
無利子の「第一種奨学金」と有利子の「第二種奨学金」の2種類があります。
貸与額は奨学金の種類や学校、通学方法などによっても異なるので確認しておきましょう。
対象となるのは以下すべてを満たす人です。
- 学び直しなどで、過去と同じ種類の学校(大学・短期大学・専門学校など)で学ぶ人
- 過去に修業年限分の奨学金の貸与を受けたことがある人
- 以前、再貸与を受けたことがない人(再貸与は1回のみ)
その他、学力などについての要件を満たす必要があります。
また、専門学校の場合は、同機構に登録している学校のみが対象となるので注意が必要です。
自治体が独自で行う給付金制度
国や特定の団体が行っている支援制度のほかに、リカレント教育を受ける個人を対象に自治体が給付金制度を設けている場合もあります。
たとえば、山形県酒田市が設けている補助金制度「リカレント教育促進補助金」では、大学が実施する社会人向け講座を受講する際に、授業料の半額が支給されます。
対象者や給付金の金額、条件、申込方法などは自治体によって異なるため、詳細は自治体に確認してください。
【企業向け】リカレント教育の補助金や支援制度
ここからは、リカレント教育を導入する企業向けの補助金や支援制度を紹介します。
人材開発支援助成金
「人材開発支援助成金」とは、企業が社員に、業務に関連する専門知識やスキルの習得を目的とした訓練を行った際に、訓練にかかった費用や訓練中の賃金の一部が助成される制度です。
人材育成支援コースや教育訓練休暇等付与コース、人への投資促進コースなど7つのコースがあります。
教育訓練休暇等付与コースは、労働者が有給休暇を取得し、訓練を受けた場合に助成を受けられます。また、人への投資促進コースは、労働者が自発的に行う訓練、デジタル人材・高度人材を育成する訓練、サブスクリプション型の訓練を実施した際などに、かかった経費や賃金の一部を助成するものです。
人材開発支援助成金を利用しやすくするため、2023年4月に制度の見直しが行われました。
生産性向上支援訓練
「生産性向上支援訓練」とは、企業が生産性を向上させるために必要な知識・スキルを習得する職業訓練のことです。独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構が実施しています。
生産性向上人材育成支援センターの担当者が、人材育成における企業の課題を整理してコースを提案してくれるのが特徴で、以下4つの分野における訓練を自社会議室やポリテクセンターなどで実施します。
- 生産、業務プロセスの改善
- 横断的課題
- 売上げ増加
- IT業務改善
受講料は訓練時間数によって変動し、受講者1人あたり2,200円~6,600円(税込)です。
ただし予算の上限があるため、希望する訓練を受けたい場合は早めに確認しておきましょう。訓練時間はコースによって4〜30時間となっています。
さまざまな職務の人を対象に座学と演習を組み合わせたカリキュラムが用意されており、企業の課題解決や現場力の強化に活用できます。
キャリアコンサルティング
「キャリアコンサルティング」は、企業内のキャリアコンサルティングの導入に向けて、キャリアコンサルタントによる無料の相談支援が受けられる制度です。
従業員の学び直し支援やセカンドキャリア支援などで悩む企業を、「セルフ・キャリアドック」の導入や雇用型訓練などの支援を通してサポートしてくれます。
セルフ・キャリアドックとは、企業が従業員の主体的なキャリア形成を促進・支援する取り組みや仕組みのこと。キャリア研修やキャリアコンサルティング、フォローアップなどを通じた支援を行います。
たとえば、若手社員の離職率が高い、育児・介護休業者の職場復帰率が低い、中堅社員のモチベーションが下がっているなど、企業におけるさまざまな課題解決の一助となるでしょう。
リカレント教育で補助金を受けるときの注意点
リカレント教育で利用できる補助金の種類は多く、それぞれ対象者や金額、利用条件などが異なるため確認が必要です。
申込方法や申込期限、必要書類などをしっかりと確認し、不備がないように手続きを行いましょう。また、補助金は教育訓練を受講後に支給されるものが多く、受講前に支給されるわけではないので注意が必要です。
講座の種類や期間によっては費用がかさむものもあるので、まずは一旦、自分で支払えるかどうかも検討することが大切です。
補助金や支援制度を上手に活用してリカレント教育を受けよう
近年、AIやIOTなどの進歩により、ビジネスの場面でさまざまな効率化が進んでいます。そのため、これまでと同じような働き方では通用しない可能性が出てくるでしょう。
加えて、高齢化が進むことで日本の生産人口が減少し、企業や個人はこれまで以上に生産性を追求していく必要があります。人生100年時代に突入し、労働者には長く活躍できる知識やスキルが求められているのです。
そのような背景のもと、まずは何をしたらよいかわからないという人におすすめなのがリカレント教育です。
自身の学びの足腰となるコンセプチュアルスキルを磨きたいと思いながらも費用がネックになっているのであれば、本記事で紹介した内容も参考に、補助金の対象とならないか確認してみましょう。