【講義紹介】【社会学】横道誠 「当事者研究と脳の多様性」

講義紹介

本記事では、以下のYouTube動画を紹介します。

【社会学】横道誠 「当事者研究と脳の多様性」

私の本来の専門はドイツ文学の研究です。ドイツ文学を含めて文学の研究というのは歴史がそんなに長くなく、その文学研究がどういう枠組を持っているのかを研究したくなりました。ドイツ文学の歴史や、ドイツ文学を研究してきた人たちの歴史を研究しました。そうする中で、外国の文学も勉強したいと思い、世界文学という観点を持ちました。世界には様々な形で文学の世界が広がっているということです。

そういうことを研究していたのですが、あるきっかけで精神科に通うことになりました。その中で当事者研究という精神療法に出会いました。この当時者研究というのはアカデミックな研究とは全然別もので、その疾患や病気を持っている人が自分自身の生きづらさや苦労の仕組みを仲間と協力して研究し、共同研究によって自分の生きづらさを減らしていくというものです。

当事者研究の世界観を生かした形で文学研究の枠組を変えていけないかと考えているのが私の現在の研究です。長年うつの状態を繰り返しながら仕事をしていたのですが、40歳の時についに休職をすることになりました。それまで精神科というものに行ったことがなかったのですが、自閉スペクトラム症と注意欠如多動症という発達障害があると診断されました。発達障害というのは薬を投じたり手術をして直すことができないものです。生まれつき発達障害者として生まれてきて、そのまま死んでいくというものなので、薬も限定的です。

自分の生活を良い方向に向かわせることができなかったのですが、発達障害者を持っている親御さんや兄弟、精神科医やカウンセラーから見ると、空気が読めない、多動が激しい、衝動的に行動する、言ってはいけないことを言ってしまうというような困った人です。しかし、内側から見るとまた違った見え方をしています。そうする中で、支援グループに出会いました。発達障害者たちが集まって、どうやって生きやすくなるかということを意見交換しています。特に、当事者研究というものに出会うことによって、自分の苦労の仕組みを同じような苦労をしている発達障害者の仲間と共同研究していくことをしました。知恵を寄せ合って、自分の生きづらさを減らしていくわけです。

外側から見ると変わった人々、奇妙な人々ということで敬遠されたりするんですが、内側から見るとこう見えるんです。その結果を「みんな水の中」に書きました。自分自身がどういう風に体験をしながら生きているか、どういう風な感じ方、考え方をしているかということを描き出しています。

いつもこう自分がごく自然に行動するとどうも世の中と歯が合わないということが不思議でした。

例えば単純なことで言うと、階段を降りていくと私はしばしば転んでいたんです。周りを見るとそういうことは少ないわけです。そういうことで、あるいはみんなが集まって話する時に私が何か発言するとみんなが引いちゃったりするで、そういうようなことも分からなかったんです。しかし、当事者研究を進めることによって、その多くの人、その発達障害がない人のことを定型発達者と言いますが、その定型発達が感じる世界観と自分の世界観がどれだけ違ったかということがだんだんとはっきりと頭の中に分かるようになってきました。それが大きな基準になりました。現在私はやはりその自分は健常者ではなくて障害者なんだということを強く意識して生きています。それは障害者モードと呼んでいます。

それによって多くの困り事がなくなりました。例えばさっき言った階段を降りる行動などにしても、私はもう自分を後期高齢者みたいなものだと思って扱っています。つまり、世の中というのは健常者をベースに作られているものですから、その街の構造にしても、あるいはそのみんなが話し合う場面にしても、「普通はこうでしょ」ということが前提になっているんです。それが自分には合っていないということを意識しながら話したり行動したりするので・・・

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