社会人の学び直しはなぜ必要?注目される背景や学び直しの方法について
昨今、政府主導で社会人の学び直し教育の強化が進められています。新型コロナウイルスの流行により働き方が大きく変化したことも、学び直しが注目されている理由の一つでしょう。
また、キャリアアップや収入アップなどを目的に、積極的に学び直しを行う人も増えています。この記事では、なぜ学び直しがそれほど注目されているのかということや、学び直しをする方法についてわかりやすく解説します。
学び直しとは?
「学び直し」とは、社会人になって一通り仕事を身につけてから、あらためて仕事に関する新たなスキルや専門知識を得るために勉強することです。
学び直しは「リカレント教育」や「リスキリング」などとも呼ばれ、なかには大学や専門学校に入り直して学ぶ人も。もともとは政府発信の言葉で、文部科学省が学び直しに応じた施策を実施するなど、国が積極的に推進しています。学び直しの情報ポータルサイト「マナパス」や公共職業訓練などの政府が用意したプログラムを、転職や求職活動に活用する人も多く見られます。
どのような学びが必要かは仕事の内容や本人のスキルなどによって異なり、社会の変化や技術の進歩などによって学びが必要となるケースもあるでしょう。そういう意味でも学び直しに終わりはないため年齢の制限はなく、いつからはじめても遅くはありません。
社会人の学び直しが注目されている背景
ここでは、社会人の学び直しが注目されている背景について見ていきましょう。
寿命が延びて就労期間が長期化している
社会人の学び直しの背景の一つに、平均寿命が伸びたことによる就労期間の長期化が挙げられます。少子高齢化による労働人口の減少や平均寿命が伸びたことなどにより、人々がより長く働き続ける時代がやってきました。
しかし、生涯同じ環境で働き続ける人は少なく、転職して新たなキャリアを追求する人が増えています。また、定年が延びる、定年後も再就職するなどして働き続ける人もいるでしょう。人生100年時代においては定年後の数十年の期間もやりがいを持って暮らしたいと、働くことを選択する人は増えています。
そんななか、長期間働き続けたり新たなキャリアに挑戦したりするには、学び直しによる知識やスキルのアップデートが必要になるのです。
IT技術の急速な発展に対応する必要がある
デジタル技術が急速に進歩したことにより、生活やビジネスのあらゆる分野で変化が見られます。より利便性や効率性が求められる社会になったことで、既存の技術や知識だけでは対応できず、新たなマーケティングやITの知識が必要になっています。
例えば、企業が販売促進やブランディングに取り組む際、デジタルやマーケティングのノウハウは必須です。ノウハウがなけれは時代の流れに取り残され、仕事に支障が出る可能性も出てくるでしょう。
今後ますます、デジタル技術を用いて既存のビジネスモデルを変革し、革新的な商品やサービを生み出す「DX化」の推進に対応していく必要があります。特に今の時代、ITスキルを持っていないと活躍の場が狭まってしまいます。社会人の学び直しは新しいビジネスへのスムーズな移行を実現する一つの手法ともいえるでしょう。
働き方が多様化している
新型コロナウイルスの流行によりリモートワークや在宅勤務などが広がり、働き方が大きく変化したことも学び直しが注目されている背景の一つです。
オンラインを活用して新たな働き方に対応するためには、IT技術の取得が欠かせません。仕事を続けるために、新たにITスキルを身につけなければならないといった人も多いでしょう。
また、在宅勤務により時間と場所の制約がなくなり、通勤時間が減ったことで学び直しの時間が取りやすくなりました。セミナーなどがオンラインで開催されることで参加しやすくなり、これまで遠方で参加できなかった人も学びの機会が増えた点はメリットです。
より多くの人と出会う機会や、新たな人的ネットワークの形成・ビジネスチャンス獲得の可能性なども増えています。
大人が学び直しをする3つの種類とは
大人の学び直しには主に3つの種類があります。ここでは、「リカレント教育」「リスキリング」「生涯学習」についてそれぞれ解説します。
リカレント教育
「リカレント教育」とは、学校教育からいったん離れて社会に出た後も必要に応じて再び教育を受け、仕事と教育を繰り返すことです。
「リカレント(recurrent)」には「繰り返す」「循環する」などの意味があり、学んでは働き、働いては学ぶといった、学習と仕事が循環する様子を表しています。リカレント教育という言葉は1969年のヨーロッパ会議において、スウェーデンの文部大臣(後の首相)オロフ・パルメ氏によって提唱されました。
リカレント教育の目的は、仕事のための知識や技術を学ぶこと。日本では仕事を休まず、働きながら学ぶスタイルもリカレント教育に含まれます。
学習の内容は仕事に生かせる語学やプログラミング、法律、経営、会計など人それぞれです。リカレント教育はスキルアップだけでなくキャリア形成にも役立つため、従来の研修の枠を超えてリカレント教育を推進する企業も増えてきました。
リスキリング
「リスキリング」とは社会環境や働く環境の変化に合わせ、仕事に必要なスキルを習得することを指します。
意味合い的にはリカレント教育とよく似ていますが、基本的にリカレント教育はいったん職場から離れて学ぶ一方、リスキリングは仕事を続けながら学ぶという違いがあります。
リスキリングは企業が主体となって行うことが多く、従業員へ学びの機会を与えるなど、企業の施策として使われるケースも増えています。
生涯学習
「生涯学習」とは、私たちが生涯にわたって行う学習活動のことです。家庭教育や学校教育などをはじめ、地域や職場におけるすべての学びが生涯学習に含まれます。
例えば、企業内教育であれば、企業の社会的使命を果たす地域活動、IT・外国語・リーダーシップ研修などの学習活動、スキルや能力を高めるための学習行動などが該当するでしょう。
しかし、生涯学習で学ぶ内容は、必ずしも仕事と関係があるわけではありません。スポーツやボランティア活動、文化活動、趣味なども学習の対象となります。
生涯のなかで「自由に」「いつでも」「どこでも」学ぶことができ、一人ひとりが豊かな人生を送ることが生涯学習の目的です。人生100年時代に突入するなか、生涯学習の重要性はますます高まっています。
学び直しにはメリットが多い!
専門的な知識を習得すればより高度な業務につくことができ、キャリアアップにつながります。経理担当の人が簿記1級取得を目指す、税理士試験に挑戦するなども一例です。現在の仕事を深堀りしたり、新しいキャリアに挑戦したりなど、社会的ステータスの向上を狙えるでしょう。
また、学び直しは収入アップのチャンスでもあり、資格手当や待遇の良い会社への転職なども期待できます。収入アップを見据えた学び直しをしたい人は、そのために何が必要かをしっかりと把握しておくことをおすすめします。
学び直しは転職市場でも価値を高めることができるうえ、知識やスキルが身についていれば即戦力として働ける点も見逃せません。さらに、新しい人脈を形成できることも学び直しのメリットの一つです。参加型やオンラインの講座を受けることで、会社以外の人との交流が図れます。
社会人が学び直しを始める方法とは?
学び直しを始めるには「何を学ぶか」「どこで学ぶか」をしっかりと検討する必要があります。ここでは、それらについて詳しく見ていきましょう。
何を学ぶか決める
「何を」学ぶかを決めるためには、自分自身に必要なスキルや今後歩みたいキャリアについて考える必要があります。そのためにも、今自分にできることやスキルなどを棚卸してみましょう。書き出すことで可視化できるので、漠然と何をしたらいいかわからないという人はぜひ試してみてください。
また、文部科学省が提供するリカレント教育関連プログラムで、何を学べるのかチェックしてみるのもおすすめです。学び直し関連のコンテンツには社会人にとって役立つ学習情報がまとめられているので、それらを参考に自分に合った学習プランを立てられます。
学び直し体験者の経験談を参考にするのもよいでしょう。成功者の学習方法から何かヒントが得られるかもしれません。
「これなら自分にもできる」とやる気を引き出される可能性もあります。たとえ同じ職種ではなかったとしても、成功者の学習方法や1日の時間の使い方などは参考になるはずです。
どこで学ぶか決める
学び直しを「どこで」行うかも重要です。自分の関心やスキルに見合った場を選ぶことで、意欲を持って学習を継続しやすくなります。
文部科学省の事業の一環として運営されているWebサイト「マナパス」は、自分に合った講座を探しやすいのが特徴です。社会人が学べる講座の情報が幅広くまとめられていて、地域別や学校の種類別などの希望条件によって簡単に検索ができます。
また、「女性の復職・就職支援」「奨学金制度有り」などの項目から検索もでき、大学などでは社会人が受講しやすいよう、夜間や休日の講座、一定期間にまとめて学べる集中講座なども開講されています。
教室に通いにくい場合は、動画中心の講座やオンラインでの学習を選択するとよいでしょう。自分のライフスタイルに合った講座を選択すれば、忙しい人でも学びやすいはずです。
支援が受けられる、学び直しを後押しする公的制度
せっかくなら、社会人の学び直しを後押ししてくれる公的制度をうまく活用しましょう。ここでは4つの公的制度を紹介します。
教育訓練給付金
「教育訓練給付金」とは、ビジネスパーソンの主体的な能力開発やキャリア形成を支援し、雇用の安定と就職の促進を図ることを目的としたものです。
厚生労働大臣が指定する教育訓練を修了した際に、自己負担した受講費用の一部(20〜70%)が支給されます。
自己負担額を減らすことでスキルや知識の習得、資格取得を後押しする制度となり、社会人の学び直しにも広く活用されています。
教育訓練給付金の講座は内容やスキルレベルによって「一般教育訓練給付金」「特定一般教育訓練給付金」「専門実践教育訓練給付金」の3つに分けられており、対象者や支給額が異なるため注意が必要です。
令和5年4月現在、対象講座は2,820あります。幅広い講座の中から自分の関心のあるものを探してみましょう。
高等職業訓練促進給付金
「高等職業訓練促進給付金」は母子家庭の母、または父子家庭の父の経済的な自立を支援するため、自治体と協力して就業を支援する制度です。
看護師や理学療法士などの国家資格やデジタル分野などの民間資格取得のために、1年以上修業するケースに給付を受けられます。
支給額は市町村民税課税世帯か非課税世帯かにより月額7万500円〜10万円となり、また、修業中に受給可能な給付金と終業後に受給可能な給付金の2種類があります。
管轄は子ども家庭庁で、当初期限付きの支給とされていましたが、期限が2025年3月31日までに延長されました。給付金は生活や学業にかかる費用負担軽減のために活用できるため、管轄の自治体でまずは相談してみましょう。
公的職業訓練(ハロートレーニング)
「公的職業訓練(ハロートレーニング)」とは、希望職に就くために必要とされる知識やスキルなどを習得できる公的制度です。
対象はハローワークの求職者で、主に雇用保険受給者となります。講座によって約3カ月〜2年の訓練期間があり、ポリテクセンターや職業能力開発校、民間教育訓練機関などで実施されます。公的職業訓練は無料(テキスト代などを除く)で受講できるのが魅力です。
また、新型コロナウイルスの影響でシフト減や休業となった人も、在職しながら訓練を受けられます。
さらに、ハロートレーニングには、ハローワークの求職者で雇用保険の対象外の人を対象にした「求職者支援訓練」もあります。一定条件を満たせば、月額10万円の支給を受けながら学ぶことが可能です。
就職・転職支援のための大学リカレント教育推進事業
文部科学省が実施する「就職・転職支援のための大学リカレント教育推進事業」は、主に非正規採用や失業中の人を対象にしたプログラムです。
全国の大学が企業やハローワーク、経済団体などと連携し、2〜6カ月程度の期間で就職や転職につながるプログラムを提供しています。テキスト代などを除く受講費用は原則として無料です。
学べる分野はデジタル、医療・介護、女性活躍、地方創生などを中心に多岐にわたり、40大学63のプログラムが採択されています。
また、一部のプログラムは厚生労働省の求職者支援制度と連携し、職業訓練給付金を受給しながら学ぶことが可能です。
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社会人の学び直しには、キャリアアップや社会的ステータスの向上、収入アップなどさまざまなメリットがあります。新たな知識やスキルを身につけることで、転職の際にも即戦力として働けるでしょう。
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